うつ病

パンダ① 「なんだか憂鬱な気分」というのは誰でもあることです。でも・・・「2週間以上憂鬱で、なんにも楽しくない」・・・これはうつ病かもしれません。というのが『うつ病』の基準です。うつ病の人は脳の中のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が不足していることがわかっています。西洋医学の場合、脳という部分に対して治療がなされます。

 中医学ではどうでしょう。中医学では身体全体を考えます。漢方(中医学)でうつ病を考える時、病気に至った原因を考えます。また性格、生活環境、食事なども関係しています。もともと七情内傷といって感情が身体をきずつけるという理論があり、心と身体は密接な関係があるとされています。精神的ストレスの他、過労や出産など身体にかかる負荷がひきがねになる事も多く見られます。また更年期、過剰なダイエットなどによるホルモンの乱れが心(こころ)に影響する事もよくあります。

 漢方でとらえるのはこころや気の巡りです。それをとりまく五臓や気血津液があります。五臓六腑や気血津液がしっかりして丈夫なこころもつくられます。こころと関係があるのは『心』気の巡りと関係が深いのは『肝』です。五臓は相生・相克の関係で結びついているので、他の臓腑も影響します。また、脾胃の働きが弱く、水の運化失調によって出来た『痰』が集まり ストレスやイライラする事により熱化すると気の通り道が塞がって鬱滞してしまい憂鬱感が生じます。この痰は直接見えない所にあるので、無形の痰といいます。

 この形の無い痰の存在を知るにはどうしたらいいのでしょう?舌の苔がベタベタした感じは痰の存在を表します。また痰が出たり、喉に痰が絡んだり、気持ち悪くなり易かったりなどの身体からでている信号もみます。また肥人多痰(太っている人は痰が多い)といいますが、脂肪は痰のうちです。無形の痰が血脈や経絡を塞ぐことが脳梗塞・認知症・心筋梗塞などの原因になることもあります。

 人の心の状態は一筋縄ではいかない複雑なものです。あることがきっかけでうつ病になった。ある一言がきっかけでうつ病がよくなっていった。家族の支えがあったから克服できた。なぜ脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの物質は減ってしまったのでしょう?心は本当に脳なのでしょうか?何故頭でなく胸がくるしくなったりするのでしょう?まったく複雑で不思議な感じですが、心も身体もどちらも自分です。心にも身体も気血津液や五臓など陰陽バランスがとれて元気でいられます。とにかく心は複雑ですがダメージを受けたとき脳の中をのぞいてみるとセロトニンとかノルアドレナリンとか、物質的に変化が生じていたりするかもしれません。

 これは単なる1つの現象だと思います。この現象に対して物質を脳内に増やそうというのは西洋医学的発想です。減ってるセロトニンを増やせばいい、ドーパミンを増やせばいい。それが西洋医学の薬です。でも実際は何故減ったのか?その原因にアプローチしていません。一時的に減ったのであれば、補充すれば解決します。でも 何らかの原因で減り続けているなら、ずーっと使っていくことになるし外から与えられ続ければ分泌をストップする場合もあります。人の身体はあちこちにフィードバックシステムが働いているからです。

 中医学(漢方医学)のアプローチは違います。五臓六腑や気血の状態からみていきます。七情内傷といって心と身体は結びついているからです。血の不足や気の状態、臓腑の弱さや機能失調が精神状態に影響しているからです。人は心は縛られずのびのびしていたいものです。こののびのびと肝が関係しています。五行の木は肝で春・風・酸・怒・・・など関係しています。木が枝をのばしのびのびと天に向かって伸びるように肝ものびのび陽気をはぐくみたいのです。

 これが失調するとどうなるでしょう?外からは環境の改善とカウンセリング、内からは疏肝・柔肝・養血などの方法で状況の改善を図ります。また『心は神を蔵す』といって 大脳の思考する力は心(しん)にあるとされています。つまり考えすぎる(思うわずらう)と心に影響がでます。心が病的な状態になると不安・不眠・煩躁などの症状がでてきます。また酷いときは妄想・幻覚などもでます。ここまで酷くなると心が正常な働きができていない状態です。気血の流れがとどかない状態(心此処にあらずで正常な思考ができなくなっている状況)で開竅薬なども入れていく必要があります。基本的には心も肝も血によって養われるわけですから、血の不足がない事が基本です。