近年、長引く咳の中には胃食道逆流症によるものがあると言われています
胃酸が胃の近くの食道を刺激すると迷走神経が刺激され咳になるそうです
中医学では紀元前から胃と肺は関係が言われてきています
『天気は肺に通じる・地気はのどに通じる』(素問)
天気は大気から呼吸によって受け取るものの事で咽喉を伝わり肺に入り、地気とは大地から受け取る水穀の事で咽喉を通って胃に入ります
肺と胃は横隔膜を隔ててお隣どうしです
更に肺の経絡はお腹の辺りから出て大腸を通り上に昇って胃の上口から横隔膜を通り肺に達するといい経絡でもつながっています
肺の生理機能に宣発と粛降があります
宣発の働きの1つは体内の濁気の排泄(呼吸の呼によって排泄しています)で、粛降の働きの1つが自然界の清気の吸入です
これらの働きが失調すると咳や息苦しい・鼻づまりなどの症状がでてきます
この肺の上下運動は脾胃の影響をうけます
脾は昇清を主る・胃は降濁を主る・・・といい飲食によって得た水穀の精微は脾の昇清機能により肺に送られます
また胃は飲食物を下に送っていくので、胃のベクトルは下に向いています
肺の粛降(吸入する力)は胃の影響を受けています
胃の働きが失調し、胃気が上逆すればゲップや胃酸の逆流がおこります
つまり胃食道逆流症になります
方剤学を見てみると胃腸症状と咳の両方治すとなっている方剤が見られます
例えば 六君子湯です
何故咳嗽が起こるかを以下のように書いています
・・・脾運不足により水湿が停滞して痰湿を形成し「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」で肺に影響が及ぶと慢性咳嗽・喘鳴・多痰など痰湿阻肺の症候が生じる
又 麦門冬湯は肺陰不足の咳嗽にも胃陰不足の嘔吐にも使います
この場合は 胃陰が不足して胃気が和降できず上逆すると嘔吐をともなう。胃陰虚で虚火が肺陰を傷灼すると肺陰も不足して肺気が上逆するので咳込んで・・・痰が切れにくく粘稠である
肺と胃は密接に関係しているので胃の働きをスムーズにしておく事は良い事です
咳が長引いている人は暴飲暴食をさけ食生活のリズムも整え 晶三仙も利用するとよいです
独活寄生湯の話
独歩顆粒という漢方薬があります
独りで歩くという名前ですが方剤名は独活寄生湯です
効能・効果は 疲れやすく下肢が冷えやすいものの次の諸症:腰痛、関節痛、下肢のしびれ・痛み です
『中医内科学』は中医学の教科書ですが、痺証の項目があります
痺証の『痺』は本来『痹』の字ですが、どちらもしびれるという意味があります
痛みやしびれは『通じない』事で滋養されない為におきます
漢方医学には気血が経絡を流れているという独特の考え方があります
ツボに鍼や灸をした経験のある方も沢山いらっしゃると思いますがツボは経絡上にあり臓腑につながっています
だから痛い場所から離れていても楽になってきます
風・寒・湿・熱の邪気が経絡に入り込み、気血の流れを阻滞させる事で痛みが出てくると考えられています
若くて丈夫な人は経絡の中に邪気は入り込めません
何故なら気血が充実して流れているからです
しかし疲労や老化により経絡中の気血が不足すると邪気が入ってしまい痺証となります
風邪(ふうじゃ)に先導されて寒邪と湿邪、或いは熱邪と湿邪のように幾つか合わさって入ります
だから痺証の漢方薬は袪風・散寒・除湿・清熱のように邪気を取り除く事をします
痛みや痺れが長引くと気血が不足したり肝腎が弱ってしまうので、漢方薬の応援があっても身体自体が取り除くように働けないのです
そこで気血を補い、肝腎を補いながら邪気を除くのが、独活寄生湯(独歩顆粒)です
主薬の独活はウドの根で風湿の邪気を除くと伴に経絡の流れを改善します
桑寄生・杜仲・牛膝は肝腎を補うと伴に強筋骨と言って筋骨も補います
また、熟地黄は肝腎を補うと伴に益精填髄となっています
お湯に溶かして飲むと舌が痺れるような辛味を感じていかにも効きそうです
これは細辛によるものです
細辛は方剤学に「陰経の風寒を発散し筋骨の風湿を捜剔して止痛する」と書いてあり何とも頼もしい感じがします
腎精を補う
腎には『命門の火』があるといいます
命のエネルギーのようなものです
また植物の種がこれから成長していく力を蓄えているように腎に成長・発育・生殖の力を持って生まれてきました
腎精と腎気(腎陽)は蝋燭と蝋燭の火に例えられますが、蝋燭が腎精、火は腎気と言われます
どちらも大事です
腎精が不足すると成長や発育の力が弱い・老化が早い・生殖の力不足・記憶力の減退・歯や骨が弱いなどがおこります
じゃあ腎精を補うにはどうしたら良いのでしょうか?
前回 六味地黄丸と八味地黄丸について書きましたが、これも補腎薬で腎精を補えます
しかし 腎精を補う力が強いと言われるのは動物薬です
鹿茸・鹿角・海馬・紫河車などの補陽薬や亀板(クサガメの甲羅)・鼈甲(スッポンの甲羅)などの補陰薬があります
鹿角や亀板や鼈甲は長時間煮だして膠にして使います
方剤学に亀鹿二仙膠(きろくにせんきょう)が腎陰腎陽腎精を補うものとして載っています
命門陰陽両虚を主治すると書いてあり、鹿角・亀板・枸杞の実・人参で構成されています
亀鹿・鹿角・すっぽんの甲羅・なつめ・枸杞の実・山茱萸の実・山査子の実・西洋人参の入った食品が出ています
飴炊きのようになっていて甘くて食べやすいです
漢方薬では鹿茸(鹿の幼角)が使われている参茸補血丸、
鹿茸・鹿腎(鹿の陰経など)・海馬(タツノオトシゴ)が使われている参馬補腎丸、
鹿茸・蛤蚧(オオヤモリの内臓を除いたもの)・冬虫夏草(昆虫の幼虫に寄生したフユムシナツクサタケ)が
使われている双料参茸丸があります
方剤学に出てくる左帰飲は六味丸の三補に鹿角や亀板・枸杞の実などが加えられたもので・右帰飲は八味丸の三補+附子と肉桂に鹿角膠や枸杞の実・当帰など加えられています
腎陰腎陽を補い、精を補う事は成長する力や生殖の力・老化を緩める為に助けになります