機能と器質

パンダ⑤ iPS細胞の山中教授のドキュメンタリーを見て感動しました。一見 科学的、冷たい、怖いというイメージのiPS細胞ですが、この研究にたいする博士の思いは人間を思う気持ちが一杯な事を知りました。整形外科医だった教授は脊髄損傷の患者さんなどに対し無力感を覚え、その状態から将来救える為の基礎研究をする選択をしました。何年も熱心にマウスを使った研究にうちこんでいましたが、人に仕えなければ意味がないと思い始めた時にES細胞が学会で、発表されました。

 しかしある時、婦人科の高度先進医療に触れる機会があり,受精卵は命がある事を感じて、皮膚の細胞などから未分化の細胞を作れないかと考えたそうです。いつ成功するともわからない果てしなく根気の要る実験を続けたそうです。

 皮膚の細胞をiPS細胞にするという事は『時間が逆に進む』ように感じました。この細胞が医学に応用されるまで、まだまだ時間がかかると思いますが、器質的損傷によって不自由な生活を余儀なくされている人達が立てるようになる日が将来必ず来ると確信しました。しかし、遺伝子の入り方によっては発ガン性の問題なども出てくる可能性もあるそうです。漢方理論は自然の法則にそって考えるわけですが、私達の知っている範囲の法則には無い事ですが それだけに奇跡が期待できます

 漢方は紀元前から使われつづけ、その過程で発展してきました。また、人と自然がもっと仲良しで密接につながりあっていた頃、自然や身体に対する感覚が今よりもっと研ぎ澄まされていた頃、自然の中に存在する人という形で理論が作り出されてきました。だから、漢方の理論は地球上で見る事の出来る自然のあり方に反する事はありません。器質的な傷害がある時は漢方で対処する事はできません。

 中医学の名医の臨床に基ずいた小説『老中医の診察室』の中の第7話は『脊髄炎を補肝腎と清化湿熱で治す』ですが次のような話です。風邪による高熱ですっかり足が萎えて3年も歩いていない患者さんの症状を湿熱と肝腎不足と診断して漢方薬と鍼と食、そして湿が関与している為、病室を南向きに代えるなどの環境の改善などをはかります。すると3ヶ月後には歩けるようになったという話です。この患者さんは1回目の発熱時は抗生物質とステロイドなどで足は動くようになりましたが、歩く事は出来ませんでした。2回目の発熱も同じような治療をうけますが、全く足が萎えてしまいました。これを治すには、身体の機能や身体が持っている力を中医学で分析し、本来身体がもっている能力を引き出す事しかなかったのだと思います。これは機能的な問題である為中医学理論が奏効したわけです。

 腫瘤などが大きくなり、気血の運行や五臓の働きの改善だけでは対処できない時に、その昔華佗は腫瘤を取り出すという事を考えました。外科的方法です。その為『麻ふつ散』という麻酔薬を使ったといわれています。また日本においては華岡青洲が『通疝散』という麻酔薬を作って、妻で試した話は有吉佐和子著『華岡青洲の妻』の中にもでてきます。医学は中医でも西洋医学でも人が健康に暮らすためにあります。

 但、私個人の考えとしては、

先ず生活習慣と食を治す。
次に食に近い漢方を使ってなおす。
さらに、力のある漢方を使う。
さらに西洋医学の助けを借りる・・・と考えています。

 以上の事は 足し算です。漢方薬を使ったからといって 生活習慣や食生活の改善をしないでいいわけではありません。病気の段階や中医学的どのくらい健康でない状態にあるのかによってもどの段階の治療が必要かはちがってきます。ウイルスなどの外邪の侵襲をうける場合は病気は急激といえますが、脳梗塞や心筋梗塞は突然みまわれたようにみえますが、身体の中で瘀血は進んでいるわけです。

 最近、心筋梗塞や脳梗塞など循環器系の疾患にとって脂質代謝異常や糖尿病の人のリスクが高いといわれています。動脈硬化は1日にしてなるものではありません。中医学的にみると瘀血は、機能的変化から器質的変化に進んでいっていると考えられると思います。