中高年と病気

2008-03-01

 一番とりあげたくないテーマです。生活習慣がわるかったからというわけでもなく、遺伝的な側面や環境因子も加わって突然変異的な部分もあると思っているからです。ですから 養生していけばこの病気にはなりません。・・・という事も断言できないと思うからです。しかし、癌になりにくくすると言う事はありだとおもいます。

 中医学では正気の虚+(瘀血・痰湿)の状態に熱毒が加わった事によって発症すると考えられています。つまり、免疫力が弱った状態で、血行不良やうっ血などの瘀血があり、更に代謝副産物の痰湿のある所へ、インフルエンザなどの外邪の熱毒 、またはストレスによって(肝鬱化火)の状態や陰虚火旺・血熱など内面からの熱毒が加わった為になるという考えです。

 故張瓏英先生は著書の中で『陰虚が酷くなり虚陽がきわまって、陰陽転化し偽りの陰(=癌細胞)が生じる』という考えを述べておられます。漢方と西洋医学とどっちがいいですか?両方の良いところを合わせた方が良い決まっています。三国志の時代の名医華佗は麻沸散をつくって麻酔をかけた状態にして病巣を取り出したとあります。もし現代に華佗がいたら抗がん剤も使ったと思います。これは漢方薬でいえば毒のある薬といえます。毒で毒を制すというやり方です。

 しかし、西洋医学との違いは必ず身体全体を見て、正気の虚が進まないよう考慮することです。邪を攻撃する去邪の物は正気を消耗するからです。扶正と去邪の割合は人によって変えなければなりません。もし正気の落込みがひどければ、去邪はおこなわず,充分扶正だけをする事も考えられます。正気は身体がもっている治癒力であり生命力ですから、とっても大事なんです。

 中医学(漢方)と西洋医学が力を出し合って病気を診ることを『中西医結合』といいます。2002年6月号発行の中医臨床で日本人の留学生の方が上海中医薬大学付属龍華病院の腫瘍科を研修した時の事につい書いています。『この病院のすぐ近くに西洋医学で腫瘍を治療する大きな病院があり、患者さんは両方の病院を交互にうまく使い分けている様だ。またこの病院でも、西洋医学の検査、抗がん剤の投与なども行っている。統計では95%の人が両方を併用、中薬治療も正規の治療法として認められている。

 ほとんどの人が上手に両方使っているんですね。ここの教授に次のように言われました。

有瘤体必虚・・・腫瘤があれば身体は必ず虚す 
有虚首健脾・・・虚があれば健脾を治療の柱にする』

 ・・・と これは以下の中医理論と共通しています。「有胃気則生 無胃気則死」

胃の気が有ればすなわち生き胃の気が無ければすなわち死す

 いかに人の生命にとって消化器の状態が重用かを現しています。

 留学生の人は『そこで、党参・黄耆・白朮・茯苓(四君子湯)を研究し、この4つの生薬の組み合わせが有効というデーターを出し、これを方剤の組み立ての基本としている』・・・と書いています。ここでも扶正去邪の割合についてふれています。『身体がとても弱った状態であれば扶正を強化する。また扶正と去邪の両方の性質をもつ生薬も少なくない。また、この生薬が抗がん効果があるから・・・とかいうのは補助的な基準にすぎない。いかに弁証するかが要だ』と書いてあります。ピンポインとで病気をみる西洋医学に対し、中医学(漢方)は全体観を持つので扶正は得意といえます。

 西洋医学で様子をみましょう。・・・と言う時にも漢方的には様子を見ている場合でない。積極的の行う事が有るわけです。正気を補う為に何をするかは個々人でちがいます。健脾・補腎・補血(養肝)・補気・・・など状態に応じて使い分けます。大切な事は生きている。・・・ということです。中医学でいえば、命門の火が消えてないと言う事です。少なくとも治療によってこの火を衰弱させるような事があってはなりません。

 華佗は医管に「病気の根が深いので、手術をして取り除くしかないが、病死の時期と天寿は一緒なので延命にならない」と告げたが、医管は手術し苦痛を取り除いたそうです。

■華佗の事が書いてある鍼灸治療院さんのホームページです。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~ken-hari/60kadaden.htm

 生きている限りは苦痛が無い状態ですごしたいと思うのが普通ですよね。だからこそ癌に限らず病気と向き合う時、病巣だけにこだわるのでなく、自分の身体全体の声を聞く事が大切だと思います。

2007-07-01

 糖尿病という病気は消渇と考えられてきました。消渇の消は痩せる、渇は口渇のことをいいます。のどが渇いてよく飲むがすぐ尿となってでてしまうのが特徴です。

 消渇証は病気の時期と位置によって上消・中消・下消にわけられています。

上消  初期  肺   多飲
中消  中期  脾胃  多食
下消  後期  腎   多尿

 こういった考え方は基本的な概念としてありますが検査の技術が進んだ現代においては糖尿病を中医学的に考えるとどういう病気だろう?とか合併症を防ぐためにはどうしたらいいのだろう?ということが考えられてきました。すると血糖が増える血が交通渋滞をおこしやすいということが重要な問題だと考えるようになってきました。血糖値の高い血液は飲食物から得た水穀の精微が使いきれずに残って『痰や瘀』をなします。『痰瘀』が血脈や経脈の道を塞ぐと身体を養うことができず、さらの「痰瘀」を身体に残すことになります。これが合併症をまねきます。

 以前書いたように人の健康に気血津液の正常な流れが不可欠です。血脈の閉塞は西洋医学的には血流障害(もう少し複雑ですが)ということがいえると思います。糖尿病の3大合併症は網膜証、腎症、神経障害です。また糖尿病と併発しやすい病気に心筋梗塞・脳卒中・閉塞性動脈硬化症・高脂血症・感染症・壊疽・・・こういった合併症の一番の原因は痰お阻塞により気血の運行が阻まれた事です。

 よくインシュリンをうつことになったら大変とおっしゃる方がいらっしゃいます。血糖値をコントロールできていないことの方が大変なのです。高血糖による痰湿と瘀血が経絡を閉塞することが大変なのです。もし血管がびっくりするほど柔軟で血の滞りがおきなければ、多少血糖値が高くても合併症はおこってきません。

 2月3月4月は張中医学講師に『最近の中医学における糖尿病治療』について講義していただいていますが以下のような話がありました。「若年性糖尿病はインシュリンが分泌されないので幼い頃からインシュリンをうってコントロールします。この人は糖尿病という病気があるのみで他は元気で長生きです。しかし生活習慣病として現れた糖尿病は不養生からきている為、高血圧、高脂血、高尿酸血症などをともないやすいのだそうです。つまり飲食の不摂生などにより、血糖値の上昇となって表れる前に痰湿、悪血があったといえます。中医学においては体内の病理副産物の痰・瘀を除く事を考えなくてはなりません」糖尿病においても血糖値と言うことだけに着目するのでなく、痰・瘀を改善して血脈、経脈、絡脈の気血の流れを考えるのも大切だと思います。

 糖尿病と瘀血に関する研究が中医学の季刊誌『中医臨床』にのっているので、今週はそれについて書こうと思います。1978年に祝先生という方が『糖尿病が瘀血と言うことに着目して活血化瘀を主とした治療にすぐれた効果がある』ということを言ってから瘀血に対する治療の研究が糖尿病研究の中心になっていったそうです。

 では瘀血証の研究とはどんな事をするのでしょう?

①血液レオロジー
②微小循環
③血小板機能
④血管内皮機能
⑤その他分子生物学的観点から

 と書かれています。

 また糖尿病のおける瘀血の症状を3つに分類しています。

①舌が暗い紫色だったり、黒ずんだところや暗い所があったり、舌の裏側の静脈がふくれていたりする。
②網膜の微小循環に血管瘤ができる、出血するなど
③頭痛や胸の痛み、手足のしびれや麻痺など

 私たちがよく知っている 瘀血の3大症状は痛む・しこる・黒ずむですが、上記①②③の症状は「なるほど瘀血だな」ということがわかると思います。中医学で瘀血証とされた人の血液のレオロジー(物質の性質みたいなもの)を調べてみると血液粘度・血漿粘度・血球沈降速度・血管壁の圧力・微小血管の緊張度に異常がみられるそうです。また赤血球や白血球の変形能、赤血球の凝集性、赤血球や血小板の表面電位などに異常がみられるそうです。

 こういったことが血流速度を低下させたり、微小血栓を形成したりに関係していると書かれています。一口の瘀血といっても単純に血液サラサラと言う言葉で言いきれない面があることがわかります。血液レオロジーの異常の他に内皮細胞の異常や血小板の活性化について書かれています。

 内皮細胞は以下の働きをしているとされています。

1.血管の緊張度
2.血液の流れの調節
3.血液の凝固に関する調整
4.血液が血管の壁に接着するのを調整する

 ところが長く高血糖にさらされていると内皮細胞が損傷して働きがうまくいかなくなります。する血液の凝固因子が増大して血栓ができやすい状態になります。これも瘀血です。また私たちが怪我をした時、血がとまるように血小板が活性化し、凝集します。ところが糖尿病の人は血管内で活性化して凝集しやすくなっている・・・という事だそうです。これも瘀血です。

 糖に曝らされた状態は瘀血とのつながりが強いため、『活血化瘀』の漢方は不可欠になります。特に経絡の詰まった経閉、絡閉という状態は乾血といわれ、破血、破瘀の働きの中薬も必要になります。水蛭はそう言う状態によく使われる動物薬です。不通則痛で痛みやしびれが出る時には必要です。しかし血脈は宗気という気の推動力で巡っています。それには心の駆血力も必要です。また、血自体がどろどろとした痰湿の状態でもいけません。総合的に判断する必要があります。

2007-06-01

パンダ④ 「頻尿にいい漢方薬を下さい。」とはいっても頻尿と一口にいっても人によって違います。例えば膀胱炎の時もあるし、冷えて近い時もあるし、コーヒーやお茶など飲みすぎている時もあるでしょう。中医学では膀胱湿熱・腎陰虚・腎気不固・肺脾気虚・肝気鬱結に分けられます。頻尿によいと宣伝されてる漢方薬に八味丸(八味地黄丸)があります。ハルンケアなども八味丸です。これは腎陽虚といって腎虚で陽気が虚している時の方剤です。腰や膝に力が無てだるい・下半身の冷えや浮腫みがある時は服用します。八味とは8つの薬味が入っているという意味です。補腎の基本は6つの薬味(熟地黄・山薬・山茱萸・牡丹皮・沢瀉・茯苓)の六味丸です。六味丸+附子+肉桂が八味丸です。八味丸は尿の出が悪く浮腫む場合も使います。

 尿の量・色・濁りなどは重要な指標になります。一般に冷えや気虚の時は透明で量も多く、実熱 虚熱 湿熱など熱症がある時は色が濃く量は少なくなります。膀胱炎は下焦の湿熱で湿が多い時と熱が多いときとあります。膀胱炎は排尿痛があるとしています。今回の頻尿の話は膀胱炎についてはおいておきます。頻尿で尿量が多い時は腎気不固や肺脾気虚が考えられます。

 腎気不固とはなんでしょう?

 腎の働きは 精を蔵す 成長・発育・生殖を主る 水を主る 納気を主る でしたね。水を主る機能が失調すると水液代謝の機能(腎臓や膀胱の働きなど)が低下して障害がおきます。気の働きの1つに固摂があります。しっかりまもり留め固定するという意味だと思っています。血液が脈管から漏れないようにしたり汗をかきすぎで体力を消耗しすぎないように、便や尿がもれないように・・・これは皆気の固摂によるものです。腎は水を主る 腎は二陰に開竅する・・・ 腎気の固摂の働きはここでも発揮されます。この腎気が虚して固摂が失調すると頻尿になったり、失禁になったりします。

 腎が虚した為の頻尿で尿の色が濃く少ない時は腎陰虚です。腎陰が虚したため水を納めることができず、陰虚による虚熱のため膀胱気化(排尿作用)も失調するため発生します。腎虚がもとにあるので、足腰がだるく力が衰えたり、めまい・耳鳴り・などの症状を伴います。また腎気不固は腎の陽気が不足しているため、四肢が温まらないなどの冷えの症状が腎陰虚は寝汗・手足や胸のあたりのほてり(五心煩熱)などの虚熱の症状がでます。

 腎陰虚の時の代表方剤は知柏地黄丸(瀉火補腎丸)加減です。これは滋陰降火の働きがあります。陰虚の虚熱が強くなければ杞菊地黄丸、八仙丸などもつかいます。しかし、内熱による気化失調が頻尿をおこしていると考えるので火を降ろす必要があると思います。また、膀胱の湿熱をかねる時は補腎薬に猪苓湯(ボウネツ錠(粒))・瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)・五淋散などを適宜併用します。腎気不固の代表方剤は右帰丸加減です。右帰丸は腎の陽気が衰退して微弱になった時(腎陽衰微)の漢方薬で、温めて陽気を補い、精や血をおおいに補います(温補真陽 填精補血)右帰丸と同じ力のある補腎薬は海馬補腎丸・参馬補腎丸・双料参茸丸・参茸補血丸などがあります。八味丸は腎陽を温める力はありますが、填精補血は弱いので海馬補腎丸などを加えた方がいいようです。また、山茱萸・五味子・覆盆子・桑ひょう蛸・竜骨・牡蛎などは気を納め、しっかり臓に留めさせる働きがあります。補腎薬を使うことは頻尿の改善ばかりでなく、身体の陰陽のバランスを整え、精血を補って身体に力をつけることになります。

 わたしも肝腎を補って活血することは必ずしています。また、気虚体質でつかれやすいので補気薬はかかせません。 秋から冬は衛益顆粒・春から夏は麦味参顆粒や西洋人参をよくのみます。肺系が弱いのでこれらは大好きです。腎の働きをもう一度考えてみましょう。

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