インフルエンザ

「インフルエンザの季節でやだよね。」
「インフルエンザに麻黄湯が効くんだって!」
「違うよ。葛根湯だよ。テレビでやってたもん。」
「おばあちゃんが麻黄附子細辛湯をだしてもらっていたわよ。」
「天津感冒片一番いいんだよ。」

 ちょっと、みんな待って!

病気と方剤を結びつけるのはよくないことなんだよ。
麻黄湯は表寒表実で無汗の時
葛根湯は風寒表証で無汗で後背が強張る時
麻黄附子細辛湯は陽虚の風寒表証の時
天津感冒片は銀翹散加減なので風熱犯衛の時に用いるのだよ。

 風熱は犯衛って?

衛は肺衛の事だよ。
外界とつながっている肺に邪気が侵入しないように防衛する場所。つまり鼻の粘膜や咽などだよ。
つまり風熱の邪気に咽や鼻が犯された時と言う事なんだよ。

 インフルエンザに効く漢方というのを西洋医学的なデーターで使うのは過誤のもとだと思います。人のウイルスに対する反応は1つではないからです。中医漢方でいう風寒型・風熱型・風寒挟湿型・風熱挟湿型・風燥等々 例えば臨床データーによって麻黄湯がインフルエンザに効くという事になると、誰彼かまわずインフルエンザに麻黄湯を出す事になります。

 麻黄湯は発汗力のつよい方剤です。対する虚弱の人は汗の出すぎで体力をさらに消耗してしまうという事になりまねません。その中に陽虚の人がいてこの方剤を飲んだらどうなるでしょう?麻黄附子細辛湯のような陽気を補助しながら発汗させる方剤でさえ書物は汗の出方に注意するように呼びかけています。『陽虚の時は本当は発汗してはいけない! だけど、始めに発熱がある時はやむえず発汗する。』発汗の仕方が袪邪と扶正(正気を失わないようにしながら邪気を除くか)のポイントになります。

 次の文章は麻黄附子細辛湯について「名医の経方応用」の中からとったもので、漢方用語がわかりにくい所もあるとは思いますが、感じはつかめると思います。

 『附子がないと元陽が固めたれず、少陰の津液が溢れ出て、太陽のわずかな陽気も外へ失われ、生命の危険を生ずる。』

 それでは どうしたらいいのでしょう?まず自分の体質と邪気の性質を把握する事です。インフルエンザのような重い伝染病を癘気と呼ぶ事もありますが、風寒暑湿燥火の六気と関連した六つ邪気(六淫)で考えます。するとインフルエンザも発病が急でし、変化しやすい、鼻水 鼻づまり のどの痛みなど上部に症状がでるど 風邪の性質を持つ事がわかります。つまり一般感冒と同じに風寒・風熱・風湿で考える事ができます。ただ症状は急激で重篤ですから より強い力で対応しなくてはならないと思います。

 風寒型はゾクゾク寒気が強いタイプで、風熱型は咽が腫れて、熱っぽく、わずかに寒気がするものです。湿がからむと胃腸炎を伴います。炎症性のものには清熱解毒の物が必要です。身体に虚がある時(特に陰虚・陽虚・気虚の時)は発汗に要注意で、扶正解表と言う方法で虚を保護しながら、発汗します。風熱型には天津感冒片で 清熱解毒の働きで発汗はそれほど強くありません。

 風寒型には体質を考慮した方剤を使います。表虚と表実はちがいます。湿がからむ時は勝湿顆粒をくわえます。なるべく、邪気の勢いが強まらないうちに、身体を応援して邪気を追い出す事が大事です。風邪でうつりそうで心配な時は玉屏風散(衛益顆粒)と板藍茶がお勧めです。

 風寒に用いる桂枝湯・麻黄湯・葛根湯・麻黄附子細辛湯は傷寒論の中の出てくる方剤です。これはとても古い時代の書物です。また風熱型に用いる銀翹散(天津感冒片)は温病学にでてくる方剤です。明・清の時代の書物で、都市化が進みインフルエンザのような急性熱性病が出てきたことに対応して発展した学問です。この温病学の理論体系の基礎をつくった葉天士は1700年前後の人物ですから、日本の江戸時代です。ですから日本の漢方には温病学の考えは取り入れられていませんでした。

 *1999年3月発刊の『中医臨床』にインフルエンザの事が載っているのでご紹介します。

 この年の冬、日本でもインフルエンザが流行しましたが、北京でも大流行でした。そのインフルエンザの特徴は

・39℃以上の高熱
・頭痛
・筋肉痛
・鼻耳咽や目の痛み
・激しい咳
・倦怠感
・舌紅、苔黄
・浮数有力の脈・・・外寒裏熱証

・咳痰・悪心、嘔吐
・下痢・弦数の脈・・・肺経兼少陽経の病変

 でした。これに対して温病から考え『冬温』の病に属した温疫病とみています。

麻杏甘石湯+小柴胡湯+金銀花・連翹(加減)
銀翹散+三拗湯+昇降散(加減)

 などを中心に用いたそうです。予防には板藍根を含む数種類の清熱解毒薬+疏風薬でつくられたものが使われています。早期の服用によって重症化が避けられたとなっています。

「難しいね。」
「インフルエンザにこの方剤というのでなく、まずは「熱か?」「寒か?」が大事なんだね」
「それに。虚がないかも知っておくのもね。」
「まずは板藍根で予防しなくちゃ」
「出かける前に一杯 帰ったら一杯だね。」

 急性熱性病において寒熱を知ることは重用ですが、寒熱が挟雑していて複雑な時もあります。また、病邪の位置は表から裏へ、衛から深い所に変化していきます。まずは、風邪(ふうじゃ)が入り口にいるうちに桂枝湯や葛根湯類や天津感冒片を使って追い出しましょう。