呼吸器と病気

2009-10-01

パンダ⑥ インフルエンザが流行しています。お店のある学区の小学校は今週の月曜日は学校閉鎖だったそうです。これまで学級閉鎖はありましたが、学校閉鎖は初めての事で大変な状況になっている事が伺えます。おそらく金曜日くらいに、インフルエンザで欠席した子供が大分多かったと思われます。テレビでA型といわれたら、ほぼ新型に間違えないと思われる・・・と言っていました。

 子供の間の流行とは別に、普通感冒も多いようです。寒暖の差が大きいと、汗が冷えてとか、うっかり薄着で寒いなと思っていたらとかで風邪気味になるようです。風邪ばかりでなく体調に不安を感じたり、イライラしたりも多くなっています。その中に新型インフルエンザにたいする不安も入っているようにおもわれます。こういう時期こそ、養生をして病気に対抗できる身体づくりをしましょう。中医学では病気と戦う力は正気です。また病気を身体に入れない力(防衛力)は衛気です。衛気や正気の充実を考えましょう。

 私たちは大昔から感染症と戦ってきました。抗生物質ができてから、感染症の死亡率が激減しました。近年、抗ウイルス薬が開発されてきています。タミフルやリレンザも数年前まではありませんでした。ウイルスをやっつける薬のない時代は私たちは自己の免疫力でウイルスと戦ってきました。さらに昔は抗生物質もなく、健康は病原菌に打ち勝てるかどうかにかかっていました。養生が中心にかかれている黄帝内経には長生きの為の養生、即ち病原菌を寄せ付けない身体づくりについて書かれているわけです。

 正気を衰えないようにしていきには、いかにしたら良いか?

 本質的には規則正しい生活・好き嫌いなくよくかんで温かい物を頂く・充分に睡眠をとる・心を穏やかに保つ・・・など現在でもよく言われる事が中心です。

 一昨日の夕刊に新型インフルエンザにかかりインフルエンザ脳症を発症した人が7月から10月の3ヶ月間に50人におよんでいるとの事です。喘息などの基礎疾患のある人や既往症のある人が重症化しやすいことや48時間以内にインフルエンザ治療薬を服用しても重症化している事などが書かれていました。大変な状況ですが軽くすむ人もいるようですから、心配しすぎずに予防対策をしっかり行う事が大切です。

 インフルエンザはウイルスです。昔、『一生の大病』とされたはしか(麻疹)と同じです。私も妹もはしかは烏犀角という薬で治したそうです。(現在烏犀角の中にはいっている犀角はワシントン条約で希少動物保護の為、禁止になっています。)

「はしかの時は風にあててはいけない」
「強い解熱剤を使ってはいけない」・・・と両親にいわれていました。

 これまで子供がインフルエンザにかかった時はウイルスなので同じだと考えて対処してきました

「子供がインフルエンザだったのに、うつらなかった。」
「兄弟がインフルエンザだったけど、この子はうつらなかった」

 とかあります。

空気感染なのに何故?
抗体があったから?

 実際どうなってるか、身体のなかを開いて覗く事はできません。同じ家の中ですごしているわけですし、ウイルスが身体にまるっきり入らなかったというのも不自然だと思います。だとすると、身体はウイルスと戦い、増えないうちに押さえ込む事に成功したのかもしれません。その可能性は大きいと思います。昔、小学校に入ってツベルクリンをしました。私は陽性でした。結核をしたわけではありません。自然陽転してたわけです。

 漢方で病邪との戦いは邪正闘争です。邪気と正気が戦います。邪気が小さければ簡単に正気が勝ちます。また正気が強ければ簡単邪気に勝てます。正気をどうやって鼓舞するかが、漢方薬の使いこなしです。

 インフルエンザに対し、漢方の本場中国でのこんな記事が東洋学術出版社のホームページにでていたのでお知らせします。興味のある方はクリックしてみてください。

 ■http://www.chuui.co.jp/cnews/001658.php クリックしてみましたか?

 このカプセルの中身をみると日ごろ馴染みのものが使われています。

・連翹・金銀花・炙麻黄・炒苦杏仁・石膏・板藍根・錦馬貫衆・魚腥草・広藿香・大黄・紅景天・薄荷脳・甘草が中身ですが

連翹・金銀花・・・天津感冒片・涼解楽の主薬
麻黄・石膏・杏仁・甘草=麻杏甘石湯=喘咳散
板藍根=板藍茶
魚腥草=どくだみ
藿香・・・勝湿顆粒の主薬
大黄・甘草=大甘丸
紅景天=香ロゼア

 です。板藍根茶は風予防のお茶として皆さんがよく使われています。香ロゼアは気力、集中力、体力が弱った時に‘根っこなのにバラの花の香がするお茶‘として皆様に愛飲されているものです。

チャイナビュー

 今月の『漢方の知恵袋』はインフルエンザに負けない身体づくりです。
 身体の抵抗力に肺・脾・腎の養生が大切という事が書かれています。
 充分な睡眠と養生法に沿った食生活で身体を整え、適度な運動、予防のため、マスク・手洗いを励行し、板藍根のお茶を飲みましょう。
 漢方には板藍根の他、清熱解毒の働きの植物が沢山あります。
 いろいろ工夫して養生していきましょう。

2009-03-01

COPDってなあに?

慢性閉塞性肺疾患とも言うのよ。
肺気腫や慢性気管支炎で呼吸困難があるものだそうよ。

じゃあ 苦しいね。

肺に空気が充分入らないから息苦しいし、酷くなると酸素の吸入も必要になるし、心臓にも影響するのよ。 

ぼくは少し喘息あるけど大丈夫?

気管支喘息とCOPDは別です。
肺気腫や慢性気管支炎の大多数がCOPDにあたります。
またCOPDの多くは喫煙者だそうです。

 逆にいえば喫煙者の五人に一人がCOPDになるというから、禁煙は大事です。特に肺気腫や慢性気管支炎の診断をうけたり、息苦しさが出たりする人は禁煙すべきです。

 慢性気管支炎は気道に浮腫が生じ狭くなり息苦しくなるし、肺気腫は肺胞壁が破壊されて息苦しくなるわけですがこの事を漢方的に考えるとどうでしょう?『痰を伴った咳がほとんど毎日、少なくとも年間3ヶ月以上続き、それが2年以上にわたるもの』というのが慢性気管支炎の定義だそうです。

 中医漢方でCOPDを考えると 痰と炎症は痰湿や痰熱、気道の弱さは肺気虚、脾気虚と考える事ができます。気道は外界と身体の中をつなぐ通り道です。ですからそこに肺衛(衛気)が沢山集まって外邪の浸入を防御しています。その衛気の働きも弱くなっていると考えられます。・・・・衛気不足

 痰に関しては量が多ければ脾に問題がある事が多いようです。脾は生痰の源(痰をつくる源)といわれ 脾の機能が弱ると痰が出来やすくなります。肺気腫は肺胞壁の破壊ですから、器質的な損傷という事になります。物質的な不足は漢方的には陰の不足です。肺陰は不足し、肺の呼吸機能が失調し、肺気は不足します。肺の気陰両虚という事になります。ですから漢方の運用においては滋陰と補気が中心になると思います。

 慢性気管支炎の場合も気管支の粘膜の損傷(あれている状態)があれば肺陰の不足を伴うと思いますが、その不足状態は肺気腫の方が酷いといえます。さらに痰によって気道が塞がれば息ができないわけですから、化痰しなければなりません。肺の力が不足なら気を補い、また物質的損傷には陰を補う事が必要です。息苦しいのは呼吸がうまくいかないというわけですが、呼気は肺が主り、吸気は腎が主ってるので、吸気に問題があれば補腎が必要です。

 年を重ねると伴に呼吸の少しは浅くなってきます。肺活量の多い人でも若い頃にくらべると落ちてくると思います。心は一生青春という思いでも体はいつまでも青春とはいきません。しかし 年をとればとるほど 体の若さに個人差がでてきます。これは腎の強さと 瘀血、痰湿という邪気の有る無しによって違ってくると考えます。ですから 体質+養生 が重要です。

 生きる為に呼吸は不可欠です。呼吸ができず酸素が運ばれないないと脳は5分で機能停止するそうです。呼吸ができなければ死んでしまうと言うことです。肺と心臓は密接な関係です。肺静脈・肺動脈で結ばれていて、心臓から使い終わった酸素(CO2)が肺に向かって運び出され、肺から新しい酸素(O2)を運んでくるわけです。心臓はその酸素を全身に送り出しています。

 息切れは肺の弱さの問題だけでなく心肺機能の衰えともいえます。漢方では『肺朝百脈(肺は百脈をあつめる)』といいますが、『心の血脈を主る』働きと通じると思います。紀元前からある漢方理論ですが心肺機能を的確に表現しているのを凄い と思いませんか?

 また、『肺は一身の気を主る』といい肺の機能低下は五臓すべてに影響があるといえます。

老化や吸気に問題があれば腎を
痰が多ければ『生痰の源』の脾を
動悸を伴ったりや睡眠の質が悪いなどがあれば心を

 緊張やストレスによる悪化があれば肝を考えにいれます。

 また肺は嬌臓といって外界に接する病気の入り込みやすい臓器です。現に インフルエンザ・肺炎・大気汚染などがCOPDの悪化の要因になっています。早めの去邪を心がける事も酷くしないコツだと思います。未病に対応できる漢方は身体を助ける力になります。

2007-12-01

「インフルエンザの季節でやだよね。」
「インフルエンザに麻黄湯が効くんだって!」
「違うよ。葛根湯だよ。テレビでやってたもん。」
「おばあちゃんが麻黄附子細辛湯をだしてもらっていたわよ。」
「天津感冒片一番いいんだよ。」

 ちょっと、みんな待って!

病気と方剤を結びつけるのはよくないことなんだよ。
麻黄湯は表寒表実で無汗の時
葛根湯は風寒表証で無汗で後背が強張る時
麻黄附子細辛湯は陽虚の風寒表証の時
天津感冒片は銀翹散加減なので風熱犯衛の時に用いるのだよ。

 風熱は犯衛って?

衛は肺衛の事だよ。
外界とつながっている肺に邪気が侵入しないように防衛する場所。つまり鼻の粘膜や咽などだよ。
つまり風熱の邪気に咽や鼻が犯された時と言う事なんだよ。

 インフルエンザに効く漢方というのを西洋医学的なデーターで使うのは過誤のもとだと思います。人のウイルスに対する反応は1つではないからです。中医漢方でいう風寒型・風熱型・風寒挟湿型・風熱挟湿型・風燥等々 例えば臨床データーによって麻黄湯がインフルエンザに効くという事になると、誰彼かまわずインフルエンザに麻黄湯を出す事になります。

 麻黄湯は発汗力のつよい方剤です。対する虚弱の人は汗の出すぎで体力をさらに消耗してしまうという事になりまねません。その中に陽虚の人がいてこの方剤を飲んだらどうなるでしょう?麻黄附子細辛湯のような陽気を補助しながら発汗させる方剤でさえ書物は汗の出方に注意するように呼びかけています。『陽虚の時は本当は発汗してはいけない! だけど、始めに発熱がある時はやむえず発汗する。』発汗の仕方が袪邪と扶正(正気を失わないようにしながら邪気を除くか)のポイントになります。

 次の文章は麻黄附子細辛湯について「名医の経方応用」の中からとったもので、漢方用語がわかりにくい所もあるとは思いますが、感じはつかめると思います。

 『附子がないと元陽が固めたれず、少陰の津液が溢れ出て、太陽のわずかな陽気も外へ失われ、生命の危険を生ずる。』

 それでは どうしたらいいのでしょう?まず自分の体質と邪気の性質を把握する事です。インフルエンザのような重い伝染病を癘気と呼ぶ事もありますが、風寒暑湿燥火の六気と関連した六つ邪気(六淫)で考えます。するとインフルエンザも発病が急でし、変化しやすい、鼻水 鼻づまり のどの痛みなど上部に症状がでるど 風邪の性質を持つ事がわかります。つまり一般感冒と同じに風寒・風熱・風湿で考える事ができます。ただ症状は急激で重篤ですから より強い力で対応しなくてはならないと思います。

 風寒型はゾクゾク寒気が強いタイプで、風熱型は咽が腫れて、熱っぽく、わずかに寒気がするものです。湿がからむと胃腸炎を伴います。炎症性のものには清熱解毒の物が必要です。身体に虚がある時(特に陰虚・陽虚・気虚の時)は発汗に要注意で、扶正解表と言う方法で虚を保護しながら、発汗します。風熱型には天津感冒片で 清熱解毒の働きで発汗はそれほど強くありません。

 風寒型には体質を考慮した方剤を使います。表虚と表実はちがいます。湿がからむ時は勝湿顆粒をくわえます。なるべく、邪気の勢いが強まらないうちに、身体を応援して邪気を追い出す事が大事です。風邪でうつりそうで心配な時は玉屏風散(衛益顆粒)と板藍茶がお勧めです。

 風寒に用いる桂枝湯・麻黄湯・葛根湯・麻黄附子細辛湯は傷寒論の中の出てくる方剤です。これはとても古い時代の書物です。また風熱型に用いる銀翹散(天津感冒片)は温病学にでてくる方剤です。明・清の時代の書物で、都市化が進みインフルエンザのような急性熱性病が出てきたことに対応して発展した学問です。この温病学の理論体系の基礎をつくった葉天士は1700年前後の人物ですから、日本の江戸時代です。ですから日本の漢方には温病学の考えは取り入れられていませんでした。

 *1999年3月発刊の『中医臨床』にインフルエンザの事が載っているのでご紹介します。

 この年の冬、日本でもインフルエンザが流行しましたが、北京でも大流行でした。そのインフルエンザの特徴は

・39℃以上の高熱
・頭痛
・筋肉痛
・鼻耳咽や目の痛み
・激しい咳
・倦怠感
・舌紅、苔黄
・浮数有力の脈・・・外寒裏熱証

・咳痰・悪心、嘔吐
・下痢・弦数の脈・・・肺経兼少陽経の病変

 でした。これに対して温病から考え『冬温』の病に属した温疫病とみています。

麻杏甘石湯+小柴胡湯+金銀花・連翹(加減)
銀翹散+三拗湯+昇降散(加減)

 などを中心に用いたそうです。予防には板藍根を含む数種類の清熱解毒薬+疏風薬でつくられたものが使われています。早期の服用によって重症化が避けられたとなっています。

「難しいね。」
「インフルエンザにこの方剤というのでなく、まずは「熱か?」「寒か?」が大事なんだね」
「それに。虚がないかも知っておくのもね。」
「まずは板藍根で予防しなくちゃ」
「出かける前に一杯 帰ったら一杯だね。」

 急性熱性病において寒熱を知ることは重用ですが、寒熱が挟雑していて複雑な時もあります。また、病邪の位置は表から裏へ、衛から深い所に変化していきます。まずは、風邪(ふうじゃ)が入り口にいるうちに桂枝湯や葛根湯類や天津感冒片を使って追い出しましょう。

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