平成28年11月 勉強会

平成28年11月20日 中医学の勉強会

よくある精神問題の中医学分析 中医学講師 何暁霞先生

うつ病状態の女性

■うつ病は脳とこころの両面でとらえる。

■うつ病とうつ状態の違い。
 ・うつ状態…抑うつ気分・落ち込み・意欲減退・思考力低下・集中力低下・食欲不振または過食・不眠・もの事の興味や関心がなくなる。
 ・うつ病…うつ状態が2週間以上続き、落ち込みも酷い。

  ☞ 一見すると脾気虚の状態に見えますが、抑うつ気分・落ち込み・過食、不眠など、脾気虚でない症状も入っています。脾・肝・心の三臓は深く関係しています。

■子供の不登校など精神問題の原因
 ・脳の栄養不足、妊娠中の喫煙・アルコールの摂取などが言われていますが、中医学においては腎虚を考えにいれます。

 ☞ 脳の栄養については研究されています。子供に限らず心療内科を訪れる人の中には貧血の改善や、タンパク質をしっかり摂る・ミネラルの摂取などだけで、状態が改善する人達もいるそうです。いつも店頭でお話している事ですが、脳や神経も栄養が必要です。

 また、妊娠中の問題はそればかりとはいえないと思いますが、胎児の環境をよくしておく方が良いに決まっています。胎教といいますが、妊産婦が精神的にリラックスしている事が一番の胎教だと思います。中医学では腎に先天の精があると考えています。ですから発達障害などは先天不足と考え、補腎をしていく事を重要視しています。

■睡眠とうつ病との関係
 就寝時間は20代~40代のうつ病の原因の1つになっている。夜12時以降就寝の学生は夜10時前に就寝する学生よりうつ病のリスクは24%高い。自殺のリスクは20%高い。

 【眠りのメカニズム】 
 メラトニンは体内時計を調節するといわれ睡眠と深い関係があるホルモンですが、22時頃から分泌が増え、翌日の4時頃ピークで下がってきます。脳の温度も睡眠と関係しますが4時頃一番低くなります。また副腎皮質ホルモンと眠りとの関係も言われています。このホルモンはストレスがかかると分泌され、眠りたいけど熟眠できず、すっきりしない状態になってしまうそうです。

 【眠りを中医学で考える】
 23時から2時間は子の刻です。夜中の12時に陰は極まって陽に転化します。入眠したら、陽気を養います。また子の刻は五臓六腑では胆の時間です。“胆は決断を主る”といい精神活動に重要な臓腑ですが、眠りによって胆が養われます。また午前1時から2時間は丑の刻です。まだ陽気は弱く、眠りによって保護されます。この時間は肝の時間です。"肝は謀略を主る“といいやはり精神と関係が深い臓腑です。つまり中医学でも古来22時から3時まで睡眠をとることが健康にとって大事な事とされてきたという事です。

■逍遥丸について
 出典『太平恵民和剤局方』
 当帰・芍薬…養血斂陰(血を養い、陰を斂る)
 柴胡・薄荷…昇陽散熱(陽気を昇らせ、熱を散じる)
 茯苓・白朮・甘草…和中補土袪湿(お腹を調和して脾土を補い痰を除く)
 生姜…暖胃袪痰、調中解欝(胃を温め痰を除き、お腹を調和して欝滞している気を流す)

 ☞ 肝は蔵血を主るといい肝の本体は陰血です。また疏泄を主るといいその機能は気を上げて、それを全身に巡らせる事です。脾は血を生む所で、肝とは相克の関係にあるので、脾は補い守らなくてはなりません。そういった事がオールマイティーにできるように構成された方剤です。

■うつによく使う弁証
 気血両虚(心脾両虚)…心脾顆粒
 心腎不交…天王補心丹
 心肝両虚化火…酸棗仁湯
 痰擾心脾…温胆湯

 【ミンハオ】

 ☞ うつにかかせない臓腑は心・肝(胆)・脾ですが、腎も重要です。腎は五行の水・心は五行の火です。五臓の中で最も陽なのが心、最も陰なのが腎です。心火は強くなりすぎると心のエネルギー過多の状態になり落ち着かなくなったり、不安が
増大したり、眠りも悪くなったりします。この火が増大しすぎないようにしているのが、腎の水(腎陰)です。心と腎が良い状態で交流しているのを交通心腎といいますが、それがうまくいかなくなった状態を心腎不交といいます。また心火が強いと心血・心陰も消耗します。

■50代以後のうつ病の原因に陰陽両虚がある。
 中医学では女性は7の倍数で、男性は8の倍数で転機を迎えると考えられています。『女性35歳陽明脈が衰え、42歳三陽脈が衰え49歳任脈・太衝脈が衰え天癸竭きる。男性40歳腎気衰え、48歳陽気衰え、56歳肝気・腎臓衰える』陰にあたる物質としての身体の衰えと伴に陽も衰える、つまり陰も陽も両方虚を考えるという意味です。

■清陽不昇
 陰陽の大元である真陰真陽は腎にあります。陽気が不足すると陽気は上の方まで昇れずうつになります。また腎は髄海(脳)に通じるといい髄海不足になるとうつのような症状になります。そこから認知症に発展する事もあります。

■対策はうつの弁証+陰陽双補
 うつ状態の症状のうち意欲減退・思考力低下・集中力低下・食欲不振・物事に興味や関心がもてないという状態があります。
これだけでは必ずしもうつとは言えないのではないかと思っています。中医学において鬱とは気の流れがスムーズでなくうっ滞している(気鬱)の状態をいいますが、上記の症状は過労などで気が虚しているとも考える事もできます。

 またうっ滞しているのが気滞そのものでなく、痰が気血の流れを塞いでいる時もあります。大きなストレスからうつ状態になる人も多いと思いますが、同じようなストレスがかかってもうつ状態にならない人もいるわけですから、中医学的には気血が充実していて五臓の営みがスムーズな人はうっ滞しにくいと考られると思います。

 また、うつになると思考回路が同じところを回っていてそこから脱する事ができなくなります。気血を充実させると伴に、ゆったりした服を身につけてリラックスを心がけましょう。