動悸

パンダ② 一般に動悸というと心臓がドキドキする事をいいます。みぞおちの所や脇腹のドキドキを動悸と言う方もいます。中医学では心臓のところを心悸、それより下の部分を心下悸といったりします。悸はわななくと読みますが心が恐ろしくふるえている状況といえます。心は心臓や心(こころ)の事です。心は血脈を主り、神(物事を考える能力)を蔵します。心の異常は『心主血脈』の異常や『心蔵神』の異常につながるわけです。びっくりしたり、いやな事があったり、緊張したりでドキドキするのは自然なことです。でも、そのドキドキがなかなか止まらなかったり、なんでも無い時にドキドキしたりは心に問題があるといえます。

 身体は気血が充実していることが大切ですが、心という臓器も同じです。血は滋養・気はエネルギーです。血が不足すればこころも弱くなって、不眠 健忘などがでてきやすくなります。また気が不足すると駆血力が低下します。ですから心臓のポンプの働きも弱って、血の巡りも悪くなります。

 回中電灯の乾電池が弱くなってくると ついたり消えたり安定しません。豆電球自体が弱まっても、電球と乾電池を結ぶルートの接触が悪くても、電池はエネルギーで気・豆電球は物質面で血です。また、ルートの不良はエネルギーがスムースに流れないと言う事で気滞です。

 心臓の拍動は気の推動力によってなされているわけですから、エネルギー不足(気虚)でもエネルギーの送られ方がスムースでなく(気滞)ても心臓自体が動脈硬化(瘀血や痰湿が原因する)などで器質的な面で弱っていても(血虚・陰虚)動悸になります。身体が疲れていたり、病後だったりする時に動悸がし易いのは身体の気が不足しているからです。神経が疲れている時に動悸がするのは気の消耗と停滞があるからです。

 不整脈など心臓の所に感じる動悸は心に問題があります。心臓だから『心』というのは当たり前なようですが、漢方の考え方では心臓でも『腎』に問題がある時もあります。五臓は影響しあっているので、中医理論をしっかり把握して考えなくてはなりません。心に問題があるときは『こころ』にも問題がでてきます。心は神を蔵す。神は精神活動の根幹のような存在です。心の気や心の血が不足すれば神も安定する事はできません。

ワー!と驚かされて、ドキドキしてしまうのは神も乱されて、心も乱れるからです。

 中医学では心臓の所の動悸を心悸といって6のパターンに分類しています。心虚胆怯・心血不足・陰虚火旺・心陽不振・水飲凌心・心血瘀阻の6つです。

心が虚して胆も虚しているので怯えやすい状態・・・ちょうど驚かされてドキドキするような感じです。

 ですから不安感を伴います。もし この状態で胃の調子が悪い時は、痰熱がある場合もあります。この時は温胆湯を服用するといいです。

 心血の不足や心陰の不足は心の栄養不足です。身体は栄養や酸素が必要です。いつでも滋養されていなくては生きていけません。血が滋養できなければ組織は死んでしまいます。心臓も同じです。心血虚や心陰虚の心臓は「酸素や栄養が足りないからもっと運んでよ」と言って脈拍をはやくドキドキさせて足りない量を送りこもうとしています。

 心陰の不足は血や水分など物質の不足のみならず陰の持つ抑制的な力も不足するのでドキドキに拍車がかかります。心血瘀阻も瘀血で血がスムースに行かない状態ですから、酸素や栄養不足で心臓はヒーヒーいってます。では心血を補う、心陰を補う、活血化瘀薬で血脈を通じさせるなどは、とても大事だと言う事がわかります。

 最初に書いたようにエネルギーの不足は動悸につながります。エネルギーの源は腎にある元気です。

元気ですかー?という元気という字は気の元とかきます。

 腎の元気は『先天の精』からでき、脾によって水穀できる水『穀の精微』によって後天的に補充されます。腎のエネルギー(陽気・元気)は身体を成長発育のエネルギーであり、身体を維持する根本的な力といえます。この精の貯えがへり、腎の気を作るもとが足りなくなってくると、全身的なエネルギー状態が悪くなり、代謝も落ちて身体が冷えやすくなり(特に下半身)水分も停滞し、浮腫みもでます。心臓のポンプの働きも弱まって、規則正しい拍動を維持できなくなったり、結滞したりします。浮腫みの出る状態も もとに陽気不足があります。

 心陽不振は心腎の陽気が不足している状態で水飲凌心は陽気の不足の為 水が代謝できず、陰邪の水が停滞しているため、さらに心陽は不足する状態です。漢方からだの現象をとらえるとき、陰陽 五行は重用です。それは自然の世界とも共通している考え方です。