感染症と中医学

パンダ⑥ 新型インフルエンザの感染が拡大してきています。現在のところ弱毒という事ですが、余談は許さない状況です。古来 人は感染症と戦ってきましたが、抗生物質ができた事で病原菌を撃退できるようになりました。結核も不治の病ではなくなりました。しかし、耐性菌の問題はでてきています。各種 抗体検査もできるようになり、例えばツベルクリン反応、BCGなど知らない人はいないと思います。つまり感染症に対して予防医学も発達してました。

 天然痘の撲滅はジェンナーと世界中のワクチン接種に力を注いだ医学者の努力の賜物といえます。病原菌よりも小さなウイルスは電子顕微鏡ができてからの発見で、ウイルスに効く薬は私が病院の薬局にいた頃(30年前)はIDUくらいしかありませんでした。現在は帯状疱疹やヘルペスに対するものなど抗ウイルス薬がふえました。

 テレビでよく取り上げられているのでタミフルやリレンザがインフルエンザウイルスに効く薬という事は知っている人も多いと思います。医学・薬学・化学の発達によって、安心な面が大きくなってきていると思います。

 ではこういった化学の発達がない時代は感染症に対してどう考え、どうしていたのでしょう?

 紀元前に書かれた黄帝内経は漢方の基本となる理論がつまった本ですが、外界の邪気にやられないようにする身体づくり(養生)について述べられています。衛気が身体を守る気であることや、正気が外邪と戦う力である事もすでに書かれています。ところで衛気や正気という言葉が風邪やアレルギー性鼻炎の話の時ちょくちょく登場しますが、気に種類があるなんて変だ!と思っている方もいらっしゃると思います。

 気は気持ちの気であると伴にエネルギー的なもの動的なものは気です。ですから、盛んに侵襲した異物を攻撃する白血球の働きは気です。そういった免疫細胞の働きや寒いと鳥肌が立つ、あるいはブルっと震えるなどの動きは正気や衛気の働きといえると思います。

外邪から防衛する力は衛気
外邪を攻撃する力は正気

 これはどちらも気ですから、気の充実が大切です。では血や津液は?どうでしょう?『血は気の母、気は血の帥』という言葉があります。気は血の充実から生み出されるわけです。血や津液は物質的な部分をさしますから粘膜の潤いや粘膜細胞が密でしっかりしていているという事は血・津液が充実している事です。また動的な部分は気ですから粘液の分泌やIgA抗体は気に属すると考えられます。漢方では粘膜は外邪の侵入を防ぐ砦ですから、衛気の多く集まる所と考えられています。

防衛力アップは衛気の充足
戦闘力アップは正気の充足

 この後ろ盾は気血の充実ですから五臓が元気でなければなりません。

 中医学では敵の性質を見ます。性質とは寒・湿・熱・燥などで身体の反応の状態から考えられているようです。例えば中医臨床2004年9月号にSARSと取り組んだ中医師の事がかかれていて 非常に高い発熱が続き、その他下利・極度の疲労感・舌質淡苔白膩・脈滑濡・・・この病態を湿熱とみています。その他 邪の入ってきた病気の位置(深さ)を見ます。

 新型インフルエンザで騒然としましたが、結局国内に入ってくる事を水際で止める事はできませんでした。今後は従来のインフルエンザと同じ対応になってくるようです。現在は下火になっている状態ですが、もともと インフルエンザの流行は空気が乾燥し寒くなってくる頃ですから、秋からが心配です。

 この時期しっかり身体づくりしておく事が大切だと思います。ウイルスは呼吸器から侵入するわけですから、肺を丈夫にしておきましょう。肺気・肺陰の充実を考えましょう。脾臓は肺と相生関係、つまり肺を生み関係ということですから、脾臓がしっかりすることは肺がしっかりする事といえます。そのためには夏暑いからといって冷たいものばかり飲んだり、食べたりしていると脾臓の働きが悪くなり、夏が終わる頃には胃腸の状態が悪く、夏ばて状態になります。そうすると肺の働きが弱くなるばかりでなく、気血を作る力が弱まって、正気も衛気も不足してしまいます。