こころとあたま

 前回は認知症についてでした。認知症は頭の病気ですが、それに付随する症状は周辺症状と言われますが、こころの症状です。「理解してもらっている。」「大事に思ってもらっている。」という安心感が周辺症状をかるくします。また、頭の部分はトレーニングによって改善したりもします。中医漢方では物質としての頭は腎と関係あると書きました。

 ではこころはというと心(しん)に関係します。心はシンともココロとも読みます。思推活動は心が行います。「あの人が、あーで、だから うーん困ったこまった」と悩むのは心です。心が患うと睡眠に支障がでます。「アー頭にきた!」「なんだかむしゃくしゃする」これは肝と関係してます。

 子供は肝が中心の事が多くおお泣きして泣きつかれてねちゃった。などという事もありますし、泣いているうちになんで泣いてるのか忘れてしまった。などという事もあります。だから疳の虫とか虫の居所が悪いなどという事は深い考えがあるわけでなく、深い悩みがあるわけでもない・・・肝の働きが悪いだけです。しかし、この虫はやっかいな事にホルモンとも関係しています。特に女性は月経前にイライラしやすくなる人は多いのですが、実は女性の月経は肝と関係が大きいからです。こころの病やこころが身体の及ぼす影響を考える時、こころって何?という事をもう一度考えてみたいと思います。

 同じ出来事があっても、思い煩うかどうかは人によって違います。「そんな事をやってたら、いつまでたっても駄目じゃないか!」と注意されて「あー どうしよう」・・・と思いつつ 夜ぐっすり眠れる人「あー どうしよう」「自分がもう駄目だ」と思い夜も眠れず思い煩ってしまう人「あー どうしよう どうしたら良いか考えよう」と気を取り直す人「やっぱだめかー」とのれんに腕押しタイプの人「なにも そんな言い方をする事はないじゃないか、あなただって(プンプン)・・・と怒るタイプ

 こころのダメージは人によって何故違うのでしょう。

 1つは考え方という事があります。思考回路の修正をしようというのが認知行動療法です。もう一つはこころの丈夫さがあります。中医漢方では『心』と『肝』また『脾』の状態がかかわってきます。心血虚・心気虚・肝血虚・肝陰虚・肝鬱気滞・肝脾不和・心脾両虚・胆虚などの状態があるとこころが安定しにくくなります。血は身体を滋潤する働きがありますが、神経やこころも滋潤します。

 「こころに潤いがない」とか「こころが満たされない」とか「こころが枯れてしまった」とかいいますよね。また こころが強いとか 気持ちが丈夫とかもいいます。しっかり滋潤されたこころは丈夫なんです。『血に魂が宿る』ともいます。血が不足すれば魂は拠り所を失うので安定できません。心は神を蔵すといいますが、神は精神(思推活動の根本)も心血が充実してこそしっかり心に宿る事ができます。ですから養血(血を養う事)はこころにとって重要課題です。

 頭・・・脳やその機能は複雑です。以前にテレビで脳を左脳の70%損傷した中国の男子学生が両親の献身的なリハビリによって大学生活をおくれるまでに回復した事がとりあげられていました。脳科学者の茂木健一郎氏が病院で明らかに損傷している脳の画像をみて「これは脳の驚異的な代償作用だ」といって感心していました。そのように脳は不思議ともいえる代償性をもっているようですが、それを発揮するには愛情と努力が不可欠なようです。その中国の男子も両親の献身的な支えによってそこまでこぎつけました。特に氏が驚いていたのは男子が感情も取り戻していた事です。恋愛中の彼女もいました。こころの機能の回復に必要な愛情とは、本人の愛されているという実感だと思います。子供を思う気持ちは同じでも、ただ心配しているだけでは伝わらない時も多いようです。実質がともなって感じられる時、言葉に愛を感じるとき、愛されている実感になるのだと思います。

 脳や機能は不思議ではありますが、愛情を必要としているのはこころです。こころは脳より複雑です。なぜなら、前述のように同じ行為に対して受け取りが違うからです。だれでも愛情と努力があればとその男子学生のような代償性を発揮するとは限らないと思います。何故ならこころが関わっているからです。

中医の理論的に丈夫な心を持っている人と持っていない人
気血が充足している人とそうでない人
五臓がしっかりしている人とそうでない人
同じだと思いますか?

 古くから漢方医学ではこころと身体がつながりがあると考えられてきました。こころ(感情)は7つあるとしています。それは 喜怒憂思悲恐驚の七つで七情といいます。喜びは心の働きを活発にしますが、喜び過ぎると心を傷つけます。怒りは肝の働きを活発にしますが、怒り過ぎると肝を傷つけます。このように脾は思と肺は憂・悲と腎は恐・驚とこのような関係にあります。七情は人が持っている自然な感情です。 

 「この中に不安感がないですね?」不安のもとになっている感情は恐れだと思います。恐れはいやな感情でできれば避けたいものです。しかし恐れの感情は危険を回避する事につながる必要な感情です。(森田療法では恐れや不安は本来人が持っている感情なので消去する事はできない・・といっています。)自然にそなわったこの感情は五臓を活発にしたり傷つけたりしますが、逆に五臓の弱いと所を知る手がかりにもなります。また、悲しみが強ければ先回りして肺を守るなど未病先防にも役立ちます。

 認知症においても 脳の萎縮の状態と実際に周囲の人が感じる重症度は違います。「周りの人が認知症を理解して接するようになってから 良くなってきた。」という話を聞くことが多いと思います。うつ病や神経症なども周りの人の態度で症状が軽くなります。漢方でこころと脳を考えるとき 心の動きとしての脳は心に関係し、物質としての脳は腎に関係します。また ホルモンや自律神経を介した脳の働きは肝と関係しています。また 気分の出方は色々で 気分がハイになりすぎて興奮しやすい時、気分が落ち込んで沈んでしまう時 前者は陽に傾き 後者は陰に傾いている状態です。