漢方って何?

 漢方医学(中医学)は西洋医学と全く異なった理論体系をもっています。病気を診断するというより、人間を診断するという所から違います。その人間の状況や状態をどうみるかによって方剤が違ってきます。どうみるか?どう方剤を使いまわすのか?それによって効き目が全然違うのが漢方です。

 三国志の中に出てくる曹操の頭痛は華佗にしか治せませんでした。それは魔法とは違います。漢方は沢山の書物と理解と応用の世界です。つまり華佗は多くの知識と応用力を身につけた名医だったと言う事です。チャングムみたい!と思う人もいると思いますが・・・

 それにひきかえ西洋医学の鎮痛剤は飲めば効きます。西洋医学の薬は対象療法は得意です。漢方は頭痛が何故おきているのかを考える事からはじめます。

中医学では

外邪から発生する風寒・風熱・風湿と原因が内にある肝陽・腎虚・血虚・痰濁・瘀血
の7つに分類しています。

 この事を把握していれば本筋から逸脱する事はないし、服用しているうちに症状は軽くなるのですが、実際は更に複雑です。

 例えば胃炎や胃潰瘍を考えてみます。西洋医学的には胃の粘膜を保護する薬や胃酸の分泌を抑える薬で胃酸による胃粘膜の侵食を防ぐ薬が使われます。現在の状態に合わせて潰瘍が酷ければ、胃酸分泌の抑制作用の強いものを使うなどします。この分泌抑制の薬ができてから、ほとんどの潰瘍が手術をしないでなおせるようになったのですからすごい事だと思います。しかし治った後も再発しないように何年も飲みつづけている人も多いようです。

 漢方の場合は視点が違います。中医学の名医の症例に十二指腸潰瘍を黄耆建中湯加減で治したものがあります。黄耆建中湯は中に膠飴という飴がつかわれているやさしい処方で、こんな方剤で潰瘍を治療できるのかと不思議な程です。この患者さんは何年も前から潰瘍をわずらっていて名医が見た時は痛みが酷く腰や背中まで痛みがありました。

生冷の食品で悪化・・・冷えがある証拠
温めたり、さすったりすると楽・・・冷えがあるし虚症
脱力感や息切れ・・・気虚

 などの症状や望診や脈診からこの方剤にたどりついたわけです。

 この方剤は中医学の教科書の胃痛を7種類に分類した中の脾胃虚寒に使う代表方剤になっています。例えば花粉症にグァバがいいとか、甜茶がいいとかいうのは、西洋医学的手法で一定の効果があるとされているということで、漢方療法というわけではありません。身体を見て、五臓や気血津液の状態、また花粉症の症状の出方から六淫の邪気を推測したりして、弁証した上に方剤を決めるのが漢方のやり方です。

 エフェドリンは交感神経を刺激し、気管支を広げるので、以前には喘息によく使われてましたが、これは麻黄という植物の成分です。漢方も発作期はこの麻黄の入った方剤が多く使われています。しかし、麻黄だけを単味で使う事はありません。中医学の教科書では喘息にあたるものは哮証・喘証です。哮証は痰の音がするもので、喘証は呼吸困難を主とします。この場合でも寒熱・痰の状態・一身の『気を主る肺』の気の運行状態などによって方剤の選び方は違っています。エフェドリンの薬効のみに着目して使うわけでは決してありません。

 漢方は身体全体を見るものですから病気と診断された人だけが飲むものではありません。未病先防ですから、漢方の理論は病気になるのを防ぐ為に多いに利用できます。例えばみなさんがよくご存知の『瘀血』です。全身または局所において血液の運行に支障があるという事を現しています。

 瘀血の3大症状は『痛む・しこる・黒ずむ』です。特に舌はよく現しています。黒ずんでいたり、紫っぽかったり、血管が黒ずんで見えたりと言う事があれば活血化瘀薬を服用することが、身体を守る事になります。特に循環器系の瘀血は心配です。西洋医学では検査で血栓や動脈硬化を知る事ができますが、普段元気な人は瘀血があっても気がつかずに大変な状況になってしまう事もあります。

 中医診断学(漢方の身体をみる方法)は私達の体のシグナルの読み取り方が詳しく示してくれています。先人が残してくれたこの宝を、健康生活に役立てなくては損すると思います。

 漢方(中医学)が西洋医学より優れていると言ってるわけではありません。現代はどちらの恩恵もこうむる事ができるわけですから上手に使っていくのが良いと思います。漢方は人全体をよく把握した学問ですから人の生死についてもつきつめて考えています。昔の書物にはいろいろケースにおいて、人はこうなれば生き、こうなれば死ぬという事が沢山書かれています。

 チャングムこんな話がでてきます。お妃さまは子供を授かるのを望んでいましたが、身体が弱かった為、チャングムの処方で紫河車を服用していました。時をへて懐妊しますが、チャングムは出産すると命を落とすのでやめるよう進言します。でもお妃様は子供を生む事希望し、出産後亡くなってしまいました。漢方(中医学)の理解が深く広いチャングムだからこそ、命の火(命門)が衰弱している事がわかるのです。

 また『老中医の研究室』の中に腫瘍の話が出てきます。一人は頸部の腫瘍で柔らかく、表面がなめらかでつやがあり咽の動きにつれて移動する。老中医は「中薬を30~40剤飲めば消えますよ。」といいました。もう一人は耳の下の腫瘍で、硬く固定して動かない。老中医は「中薬の効果は期待できないから、摘出手術を受けた方がいいですよ。」・・・手術をしてみると腫瘍の中心部は悪性化していた・・・と書かれています。この老中医だから見極める事ができるので誰でもそうはいきません。

 テレビで『魔法の手」を持つ外科医を見て素晴らしいと思いましたが、漢方(中医学)においては過去の沢山の書物から適切に理論を引き出してこれる人が名医といえるので、『魔法の引きだし』だと思います