ちがう症状に同じ漢方薬

 「帰脾湯は精神病の薬なんですか?」こういう話はどこからでてくるのかビックリします。中医内科学のなかに何度も登場するこの漢方薬はどんな働きなのでしょう?

帰脾湯は補益剤(身体を補い益する漢方薬)です。
効能は
①気を益し、血を補う(益気補血)
②脾を健やかにし、心を養う(健脾養心)です。

 この2つの働きは色々な症状において重要になってきます。血症(出血傾向)・心悸・不眠・鬱証・眩暈(めまい)・内傷発熱(熱の出る原因が身体の方にある時の発熱の事)・虚労(慢性的な衰弱傾向…虚弱体質)などです。明日からこの事をわかりやすく書いていきたいと思います。

■生理不順で帰脾湯を飲むの巻
 「更年期のせいか生理が遅れがちなんです。しかも、だらだらつづきます。」
 「量や色はどうですか?」
 「多いし、以前より色も薄く水っぽい感じです。」
 「生理痛はどうですか?」
 「すごく痛いというわけではないですが重く下に落ちるような痛みがあります。」
 「お疲れのようですが・・・」
 「いろいろあって考え込んでしまうことも多く、疲れやすくなってます。」
 「そう言う状態ならちょっとしたことにドキっとしたりし易いでしょう?」
 「そうそう。気が弱くなってるかも。だから今回もすごく心配になっちゃって・・・」
 「では帰脾湯を飲んでみてください。」

■めまいに帰脾湯の巻
 「この頃、めまいがしてこまります。疲れる酷くなります。」
 「食欲は以前と比べてどうですか?」
 「普通に食事をしていますが、お腹がすいた感じではしないです。」
 「お疲れのご様子ですが、眠りの方はどうですか?」
 「疲れているのですぐ寝てしまいますが、熟睡していないのか朝になっても疲れがとれていない感じです。」
 「爪や唇が白っぽくつやがないですし、気血の不足がみられます。帰脾湯を服用しましょう。」

■くりかえす微熱に帰脾湯の巻
 「ここ2~3ヶ月微熱かつづいています。病院で検査したのですが原因がわかりませんでした。」
 「熱はどのくらいですか?」
 「平熱は36.3℃くらいですが、疲れたりして、おかしいなと思うと36.9℃~37.3℃くらいになっています。」
 「睡眠の方はどうですか?」
 「時々、明け方目が覚めるると起きる時間が気になって眠れない事があります。」
 「動悸やめまいはないですか?」
 「動悸といえるかわかりませんが、いやな事あるとドキドキしているのに気が付く事があります。それから頭がボーっとしたり、目がチカチカするような感じがすることがあります。」
 「この症状は血虚発熱にあたります。少し時間がかかると思いますが、帰脾湯を飲んでみてください。」

 3人治したい症状はちがいますが、中医学の見方からすると同じです。3人とも顔にはりと艶がなく、舌の色は普通より白っぽく、ふちに歯型がついています。また、胃腸の働きは良い方ではなく、いろいろ考えてしまうタイプです。疲れ易く、疲れると症状が悪くなるのも共通しています。気血が不足していて・脾や心が弱い状態です。

一人目は脾の『統血を主る』という働きが特に失調
二人目は脾の『昇清』という働きが特に失調
三人目は心血の不足や脾の生血(血を作る働き)の不足により陰血が不足し陽をおさめる事ができなくなっておきたもの・・・少し難しいですが陰陽のバランスの崩れと言う事です。

 だから気血を補い・脾を健やかにし心を養う働きの帰脾錠なんです。帰脾錠の血の補い方は『補血』でなく『益気生血』です。また、心と脾は母子関係、心がしっかりしてくればその子である脾もしっかりします。

 「異病同治・同病異治」と言う言葉がありますが、漢方薬を選ぶ本質がこの言葉の中にあります。一般の薬は頭痛には鎮痛剤・咳に鎮咳剤・痰がからめば去痰剤というように薬理作用で使います。漢方薬は外因・内因を考え中医学的なバランスシートが作る事が大事です。まず、病名や治したい症状を知り、病気のもっている性質・どう発展するかを理解します。その上で、寒熱・虚実・表裏・陰陽を考え、気血津液を考え、五臓を考えて自己の身体がどうなっているかを知る。これができてはじめて方剤選びができるし、いい結果につなげられるのだと思います。

 『敵を知り己を知らば百戦危うからず』この言葉は父のブログ“うえんてら”にでてきますが、中医学まさにこれ!