漢方の寒熱の話

「風邪ひいたみたい。」
「気候が不安定だから、身体を冷やしたんじゃないの?熱を測ってみたら?」
「ゾクゾク寒気がすると思ったら、38℃もある!」
「ゾクゾク寒気があるんだね。、じゃあ風寒だから汗は出てないようだし葛根湯を服用するといいよ。」

 漢方でいう寒熱ってなんでしょう?熱が38℃という事は体温は高い、つまり身体を触れば熱いという事です。でも、本人の感じ方は寒いです。背筋が温まらず冷えている感覚をもっているわけです。これに対して漢方は風寒の邪気によると判断して、辛く温かい漢方薬で身体を温め発汗する事によって対抗します。漢方の寒熱は体温の事ではなさそうだ・・・という事がわかります。
漢方に使われる植物・動物・鉱物の主なものは中薬とよばれ、中薬学の本にのっています。本のなかに1つ1つの中薬が解説されていますが、性味という項目に寒とか温とかかかれています。葛根湯の中の麻黄は温・桂枝も温とかかれています。

 漢方で薬効のある物とされる動、植物や鉱物は『五味があり、四気がある』と中国に現存する最古の本草学の専門書である『神農本草経』に書かれています。『神農は百草を嘗め、1日にして70毒に遇う』と記された神農はという人物がいたわけでなく、実際は多くの経験則の集大成なのです。中薬(薬物)の薬性のうち四気は寒・熱・温・涼に分類されていますが、古人(昔の人)の医療経験からなるもので、科学的な根拠があるものではありません。しかし、科学的実証以上に超長期にわたって得た経験則は重要視すべき宝のようなものだと私自身は思っています。ところで、実際は平があります。つまり以下のようです。

熱←温←平→涼→寒

 この中薬の寒熱にそった扱い方は単に身体を冷やすか温めるかではありません。寒邪・熱邪の邪気に対する時もあるし、身体の陰陽に対する考えもあります。肝鬱化火のように神経の興奮の意味合いが大きい時もあります。また、そうきっちり寒熱を分けれない事もあります。寒熱挟雑!むしろ、その方が多いと思います。陰陽で考えれば動は陽、静は陰ですから、エネルギー過多の状態も熱です。

 例えば甲状腺機能亢進症の場合『亢進』という言葉からも熱でとらえる事ができる事がわかります。ただその場合、虚火・虚熱であることが多いので、とにかく寒剤で冷やそうとするのは間違いです。

 同じものでも、寒熱の違いがあります。一般に炒ったり、干したりと熱をくわえると温の方に傾きます。例えばショウガです。
生姜(ショウキョウ)は生で微温 乾姜(カンキョウ)は干したもので大熱 またジオウは生地黄(ショウジオウ)は生で寒
熟地黄(ジュクジオウ)は蒸したもので微温です。ですから食品においても熱を加える事によって寒熱は変化するので冷えるタイプや代謝がわるいタイプは熱を加えたものを食べる方がいい事がわかります。は身体の状態を表している事はテレビなどでも取り上げられているので知っている人も多いと思います。代謝がおちこんで冷えている時は白くぶよぶよした感じの舌の時が多いです。

 寒邪が入った時は気血の流れが鬱滞して紫っぽくなる事も多くみられます。子供の頃、プールや海泳ぎに行った時に「唇が紫になっているから上がって温まりなさい」といわれた経験はありませんか?また、熱がある時など舌の色が紅くなります。走ったり、運動したり、食事の後なども赤っぽくなります。これは熱や熱エネルギーが充満や神経の興奮などを表しています。舌が赤いのに、冷えを訴える事もあります。これは気鬱化火で、『気が巡らなければ、血も巡らない』為に血行不良になっている事も考えられます。中医学を熟知している人達は「まず、弁証」という言葉を口にしますが、中医学的な鑑別なしに漢方薬を選ぶ事はありえません。