平成30年5月 勉強会

『耳鳴り』・・・中医学における実際(成都耳鼻科研修より)

成都中医薬大学付属病院で耳鼻科の研修をしました。
『耳鳴り』に対して問診・脈診
望診―舌診・(耳の中・鼻の中の望診)
もちろん、顔色・表情・体つき・姿勢をみるのも望診です。

 

 

 

 

 

 

 

聞診は声の力など聞いて得る情報です。
四診合算して処方を決定します。

耳鳴りでも必ず鼻の中も見ます。
耳・鼻・喉はつながっているので関係しているからだそうです。
耳鳴りにも鼻淵丸の主薬である蒼耳子や辛夷も使っていました。
蒼耳子はオナモミの成熟種子で散風通竅に働きます。
「諸子みな降るも、蒼耳ひとり昇る」といって上の方で働くそうです。
通鼻竅とは鼻の竅(あな)を通じさせるという意味で耳や鼻の詰まりに使えるという事だと思います。
蒼耳子は袪風湿薬の1つで辛夷も散風や通鼻に働きますが解表薬に分類されていて鼻中心のようです。
そういえば、蒼耳子に耳の字がはいっているのは何でだろう?もしかして始めは耳に使われていた?

基本は煎じ薬で、煎じ薬プラス中成薬(これは市販品のようにエキス剤などそのまま飲めるタイプの漢方薬の事です。)の組み合わせもありました。

処方は 散風…風邪を散じる
疎肝…耳の周りは少陽胆経の経絡がある所です。気の流れをスムーズにする。
袪湿、利水、勝湿、化湿など また、三焦経もまた耳の周囲を通ります。
活血通絡…通じざれば則ち痛む。通路を開通する。
補腎…腎は耳に開竅する。
養心安神…耳鳴りは不眠と関係が深い。

散風薬には羗活・白芷・川芎・荊芥・防風など頂調顆粒(川芎茶調散)のような中薬が多く使われていました。
疎肝に関して柴胡中心です。柴胡は少陽(胆・三焦)に停留した邪を表まで引っ張り出す透表という働きがあるからです。
活血に関しては内臓の問題がなければ川芎がよく使われていたのでここでも頂調顆粒が使えます。
通絡は活血以上に必要だと感じました。
地竜・キレンソウ・徐長卿などつかわれていましたが、活楽宝が通絡のものを多く使ってあるので代用できそうです。
あと利水・袪湿など湿をさばくのに益気利水の黄耆を大量に使うケースが多く見られました。
特に耳鳴りが鼻や咽も関係しているなら黄耆が6g入れてある衛益顆粒も必要だと思います。

1日目は宋先生の診察室でした。
宋先生は「突発性難聴は早期に鍼すると改善できる。また鼻と聴力に問題のない神経性の耳鳴りは鍼が効果的です。」と話していました。

身体にも刺す人は鍼灸室で行い、耳の周り・頭の上・首の後ろ・腕と手の甲に刺す人はその場で使い捨て針の封をきって3分くらいでさしてしまいます。
そこに座っていた中年の女性は
「山東省からきました。
治療していましたが聴こえなくなってしまいここにきました。
今日で針治療10日目です。
だいぶ聴こえるようになりました。」と話ていました。

耳の役割は外耳が音を集め、中耳が空気の振動を内耳液に伝え、内耳は内耳液の振動を電気的信号に変えて内耳神経から脳に伝えます。
この1連の振動の送りのどこかがうまく行かなくなると耳鳴りや難聴になります。
つまり大きく分けると以下のパターンが考えられます。
①耳に問題がある
②伝える神経に問題がある
③受けとる脳に問題がある。

中医の先生も「睡眠状態が回復すると耳鳴りも緩和する」と話しておられました。
ですから睡眠の良くない患者さんにたいしては散風薬に酸棗仁のような安神剤を加えていました。

また浸出液があったり、痰や洟がある時は利水・袪湿・袪痰など、あるいは益気利水の方法も加える必要があります。

浸出性中耳炎は治りにくい病気で、抗生物質を長期に服用するようですが、耳鳴りを伴う事もあります。これは外邪との関連しています。耳の痛みや耳の詰まり感、また鼻水鼻づまりなど鼻炎を伴う時など散風・袪風湿・清熱解毒などの方法が必要になります。
また、風邪が少陽経(三焦・胆)に入ると胆と肝は臓腑の関係なので肝の経絡である耳に影響が及び鬱熱があれば柴胡・黄芩も加えて少陽の鬱熱を清します。

実際、老中医(優れた医師の称号)熊大経教授の処方も柴胡・黄芩に頂調顆粒のような散風薬が使われ、更に外邪を防御するため玉屏風散(衛益顆粒)の方意も含む事も多く見られました。

熊先生は講義のなかで『邪の湊(あつま)るところ、その気必ず虚す』と黄帝内経の一文を引用され鼻は外邪の侵入経路ですので邪の集まる所と話しました。
鼻・咽・耳の耳鼻科領域は空気と接しているので細菌やウイルス・ほこり・花粉・ダニ・真菌など沢山の外邪に対し防ぐ事をしなくてはなりません。
その為 気血両虚・気陰両虚の人には必ず黄耆を多くくわえます。

 

 

 

 

 

 

老化による耳鳴りは腎と関係しています。
老化の耳鳴りとは感覚器の衰えですから虚証の耳鳴りです。
これは夜静かになったときに感じる耳鳴りです。
目は肝・耳は腎に開竅しているのでの肝腎虚です。
だから、肝腎を補うことが大切です。
そうすれば老化による難聴の速度をゆるめる事ができます。

しかし昼でも気になるとか、人と話していても気になるなどの耳鳴りは肝腎の衰えだけでなく神経系や脳からの耳鳴りも関係しています。
補腎薬に安神の漢方や活血通絡の漢方も加えます。

すぐ良くなるものではありませんが身体にも力がつくので気長に使って行って下さい。