血の巡りの話

パンダ② 唐突ですが、数分間息が吸えないと死んでしまうのは何故でしょう?この事は人の身体にとって空気(酸素)がいかに重用かがわかります。これを運んでいるのが血脈です。梗塞をおこした部分の周囲は酸素が受け取ることが出来ずに壊死してしまいます。
それが心臓や脳など身体の中枢でおきると大変な事になります。

 血の巡りは全身の問題です。漢方では“瘀血”のうちに入ります。瘀血を生じ易い疾患としては糖尿病・脂質代謝異常・高尿酸血症・高血圧など考えられます。しかし、そればかりではありません。血が巡ると言う事はどう言う事なのかを考えてみたいと思います。

 心臓は血液を運ぶポンプの役割をしています。中医学では『心は血脈を主る』いい、全身の血の巡りの中心です。心のエネルギーは心気といい、心気が充足していれば身体全体が栄養されるわけです。もし疲労でエネルギー不足の状態で心気が不足すれば、血脈の流れも悪くなります。これは気虚により瘀血が生じるという状態です。この時まだ血の巡りが悪い血滞の状態で瘀血に発展していなければ、補気薬を使います。原因は疲労から気虚になった状態ですからまず気を補います。しかし疲労が重なって過労になると、もうすでに瘀血の状態があると考える方が良いと思います。悪くすると循環器に影響が及んで過労死になる場合も考えられます。そのときは補気薬+活血化瘀薬を使い身体を守る事をします。これは未病先防です。

 気が不足すると巡りが悪くなると言う事がわかりましたが、血が不足するとどうでしょう?臓腑や身体の各器官の滋養する血が足りないわけですから、当然隅々まで行き渡らない事になります。また『血は気の母』『気は血の帥』というように血を素にして気が作られ、気と言うエネルギーがあって血もつくられるという事がいえるので、気も不足傾向になります。

 足りない為に流れないと言う事になりますし、各細胞や臓腑も充分養われないと言う事です。という事は心血も不足してくると、心も養われないため、動悸・不眠・不安などの症状も現れます。血の不足によって、血の流れが停滞する時は補血薬で血を補えば改善されます。しかし、長引いて瘀血になった時は補血薬+活血化瘀薬で改善します。

 血が巡る為に気(エネルギー)がいるわけですが、気虚(エネルギー不足)については書きましたが、気滞(エネルギーの滞り)という事もあります。ストレスにより肝のエネルギーのコントロールをする働き(疏泄機能)が失調すると気の停滞が起きます。ちょうど信号機が故障して、それぞれの統制がとれずに渋滞してしまうのと同じ状態です。

 気滞は瘀血に必ず発展するので『気滞血瘀』という言葉があるくらいです。血管運動にかかわる筋肉は平滑筋で自律神経に支配されています。自分の意志で動かせるわけではありません。ですから、ストレスの影響をうけやすい事がわかります。

 もう一つ、血液自体が不用物でドロドロしやすいという事があります。血糖値が高い、コレステロールや中性脂肪が高い、尿酸値が高いなどは汚れた川の流れが悪くなるのと同じです。特に曲がり角や太い流れから細い流れに行く所は不用物が溜まり易いのは川の流れを想像しても明らかです。その証拠に糖尿病の合併症は目や腎臓や抹消など微小循環の部分でおきています。中医学(漢方)では瘀血になりますが、瘀血は万病の元というのは頷けます。

 もう一つ潤い不足(陰虚)で血の巡りが悪くなると言う事があります。この陰虚というのは陰陽の陰が不足していることですが、解りにくいと思います。陰が不足するわけですから、バランス的に身体は陽に傾きやすくなります。これによってでる熱エネルギーは虚の熱(虚熱)です。虚熱によって身体は乾燥しやすくなります。

 また人において陰は形で物質面・陽は気でエネルギー面です。ですから形態的な部分が不足しているのですから、血の水分を含めた全体量も不足するばかりでなく、血管の柔軟性もなくなってきている状態です。こういった状態で血の巡りが悪い場合は滋陰・生津という方法が中心になります。例えば、麦味参顆粒や炙甘草湯や天王補心丹などがそれにあたります。瘀血があれば活血化瘀薬を加えます。沙棘はもともとはチベット医学で使われてたものだそうですが「潤おす」「巡らす」の両方の働きがあります。

 糖尿病も脂質代謝異常も高血圧も最終的には循環器や微小循環に影響するから大変なわけで、『血の巡り』の病気といって過言でないくらいです。例えば血糖値が高いということは・・・合併症が心配です。この合併症のほとんどは高血糖状態つづくことで循環障害をおこす為におきます。糖尿病網膜症は網膜の毛細血管が障害をうけ、出血がおきます。

 これが進行し血流が滞り、網膜の細胞の酸素不足を補うかのように(弱くて破れ易い)新生血管ができます。これの出血によって目の見えにおおきな障害をもたらす事もありますし、新生血管が緑内障をひきおこす事もあります。また、糖尿病性腎症も腎臓の糸球体という毛細血管の集まった所の循環障害が起き、少しづつ腎不全へとすすんでいきます。

 これだけ見ても、身体中を『血が巡っている』ということの重要性がわかります。血の巡りの悪さは病気という形で見えないうちに進行する事も多いものです。私達は年齢と伴に少し弱い部分がでてきます。それを補いながら巡らしてあげる事は健康の源です。