五行学説の運用

 先週『老中医の診察室』から木克土で腹痛を治療した話をかきました。

木と土は相克関係にあります。
木が土を抑える関係です。
木は肝、土は脾です。

 肝は疏泄を主るといって気の巡りを調節する働きがあります。肝は疏泄を主るといって気の巡りを調節する働きがあります。また、脾は運化を主る(食物の消化・吸収、栄養や水分の輸送の事)といい胃腸の働きと関係しています。肝が失調して過亢進になってしまうと脾の働きを抑えこんいるという事を木克土と表現しているわけです。この時、抑えこまれて弱っている脾をいくら補ってもうまくいきません。実している肝を治療するのが先決です。

 五臓は関係が強い部分とそうでもない部分とあります。五臓の性質にもよるのかもしれません。臓腑は実でも虚でもよくありません。平がいいのです。

 五志と五臓の関係は

肝 怒
心 喜
脾 思
肺 悲
腎 恐  です。

 五行の相克の関係を利用したこんな話があります。昔、偉い漢方医のところに老人が訪ねてきました。娘が行商に出て帰ってこない夫のことを思い悩んでばかりいます。食欲はなくなり、衰弱して、あれこれ薬を飲ませて見ましたが一向に効きません。

では こうしてみましょう。ふむふむ

老人は家に帰ると娘 に「おまえなんか大嫌いだ!こんな物はこうしてやる」といって娘が大事にしていた夫からもらった物を外に放り出しました。

まーお父さんなにするんですか!まったくひどい事を!(怒)プンプン! プンプン!

少し元気が出たようです。そこで「婿さんはもうすぐ帰れってくるらしいときいたよ」そう言って食欲の増す漢方を与えました。

娘は日増しに元気になったそうです。

 脾が実になって思が過度になったのを肝の怒を使って抑えたのです。

 季節の変わり目に咳がよく出るので、体質改善に補中益気湯を飲んでます。ぼくはアトピーで健脾散(参苓白朮散)だよ。わたしはアレルギー性鼻炎で、痰もからみやすいので香砂六君子湯飲んでるんだ。これらの病気の部位は肺です。でもこの漢方薬は皆脾を健やかにする働きがあるものです。肺と脾は相生関係で脾は肺を生む・・・つまり脾は肺の母です。母の病気は子に伝わるだから母が元気になれば子も元気になるというわけです。

 帰脾錠(帰脾湯)は 心脾両虚の動悸・健忘・不眠・食欲不振・微熱・倦怠感や脾不統血の出血に使う漢方薬です。心(こころ)をいためていろいろ考えすぎること(思慮過度)によって心(母)と相生関係にある脾(子)に伝わり食べたくない・だるいなどの脾虚の症状がでてきます。母病が子に伝わり、また子の弱りが母に影響するという状態で両方を補うような処方構成になっています。

 このように方剤の中にも運用されています。一般的に喘息は肺の病気・下痢は腸の病気・動悸は心臓の病気・・・と考えます。漢方では五臓の関連で考えるます。

例えば

「喘息です。息が吸い込みにくく、息切れしやすいです。」
「腎に問題があるのではないか?顔色も黒ずんでいるし・・・偏食はないですか?」
「お饅頭・おしるこ・かりんとう・ケーキ・ジュースなど大好きでつい沢山食べてしまいます。」
「やっぱり、腎に問題があります。甘い物の食べ過ぎは腎を傷つけます。」

 肺と腎は母子関係です。また甘は脾の味で腎とは相克関係です。味過於甘、心気喘満、色黒、腎気不衡。これは甘いものを過食すると腎気に影響するということです。この時 腎陰虚なら八仙丸中心に腎陽虚なら平喘顆粒(蘇子降気湯)、双料参茸丸、海馬補腎丸、八味丸などを柱に方剤を組み合わせます。おもしろいですね。一見、現実離れして見える五行の理論ですが、実際にそれでうまくいきます。この理論は実際に歴史の中で運用され淘汰されて現代に至ったものだからです。

 非科学的な感じ!そんなの不用なものだ・・・などといってると損すると思います。