呼吸器と病気

2007-11-01

 風邪をひいたので漢方薬を飲みたいのですが 赤い風邪・青い風邪とかで分けるのを聞いた事があります。それは風邪(ふうじゃ)に伴ってくる邪気に寒熱の違いがあるからです。また人にも陰陽の偏りある事も多いです。症状の現れ方が熱証がつよいか寒証が強いかで異なります。赤い風邪は熱っぽい咽が赤く腫れて痛むなど熱証の風邪のことで、青い風邪はゾクゾク寒気が強い寒証の風邪の事です。風邪のひき始めはまだ風邪が体表部にあり身体の正気と戦っている状態です。(邪正相争)この時期に身体をバックアップして風邪を外に出そうというわけです。

 発汗は重用なポイントで解表剤をつかいます。

 『(邪が)その皮にある時は、汗してこれを発す』

 風熱の邪に対しては辛涼解表。風寒の邪に対しては辛温解表という方法で対抗します。また、体質が虚弱な人には身体の内側をフォローしながら発汗する不正解表という方法を使います。

 よく知られている葛根湯は青い風邪(風寒型)の時です。葛根湯とはどんな方剤でしょう?『太陽病、後背強几几、無汗悪風、葛根湯主之』邪がまだ体表にあって(風邪のひき始め)、後背部がこって、汗がなく、寒気がするものは葛根湯がいいです・・・という意味です。

 汗が出ている時は桂枝湯を使います。

桂枝湯→ 桂枝 生姜 炙甘草 白芍 大棗
葛根湯 → 葛根 麻黄 桂枝 生姜 炙甘草 白芍 大棗

 黄色の部分は解表剤で発汗の働きがあります。赤は温で青は涼です。麻黄と桂枝を合わせると発汗力は大になります。汗のかき方はとても重用です。発汗しないと邪を閉じ込める事になるし、発汗しすぎは身体の気や陰分がもれ出てしまうからです。

寒い!風邪かな? 葛根湯
汗ばんでる(自汗タイプ) 桂枝湯

 また麻黄湯という方剤があります。

麻黄 桂枝 杏仁 炙甘草・・・麻黄湯

 方剤学では風寒表症の表寒表実の状態を主治するとなっています。正気が虚していないため、風寒の邪気の侵入によって、体表部での邪気と正気の戦い(邪正相争)が強い状況です。その為悪寒し、門を堅く閉ざしてしまう為無汗となります。汗は肺の宣発という働きによってなされていますが、表が閉ざされ肺の働きも失調します。つまり、ゾクゾクと寒気が強く、節々が痛み、汗がでてなければ麻黄湯がききます。しかし、服用し汗が出た後はもう服用しません。麻黄湯は発汗効果の強い方剤なの注意も必要です。

 『開表逐邪発汗の峻剤』ともいわれます。

 ですから青い風邪には葛根湯を服用するのがいいと思います。でも昨日も書きましたが、葛根湯も麻黄+桂枝なのを忘れず発汗しすぎないよう注意しましょう。

 赤い風邪(風熱型)には銀翹散(天津感冒片)です。辛涼透表・清熱解毒の働きがあり、主薬は金銀花・連翹です。辛涼透表とは身体を涼しくしながら邪気を体表部まで連れてきて、辛い味によって発汗し外に出すという意味です。天津感冒片は銀翹散から芦根を去って羚羊角を入れたもので熱さましの働きが強化されています。羚羊角は散血解毒の働きを持ち温熱病による高熱・意識障害などに用いられるとなっています。よく子供の夜泣き・疳の虫・ひきつけなどの宇津救命丸にも使われています。

 『温邪は上の方を襲い、まず肺を犯す』といいます。

 だから赤い風邪(風熱型)では風熱の邪が口や鼻から侵入し肺衛(風邪の侵入を防ぐ場所である鼻や咽の粘膜)や肺系がやられます。ですから、急に冷え込んできて風邪をひいたようなときは風寒型が多く、呼吸器系を通じてうつり急速に症状がでるインフルエンザは風熱型が多いといえます。

 清熱解毒という言葉で解毒の毒は風邪の場合はほとんどがウイルスです。毒は細菌やウイルスを指す時もあるし、免疫異常の免疫や癌やアレルギー反応をおこす抗原など、身体にとって悪い影響をひきおこすものに毒と表現するようです。だから痰湿・瘀血も毒と表現される事もあります。

 くりかえしになりますが、正気 が虚している場合は扶正虚邪という方法です。正気の不足が

気虚ならば益気しながら発汗します。
陽虚ならば補陽しながら発汗します。
血虚ならば養血しながら発汗します。
陰虚ならば滋陰しながら発汗します。
正気は邪気と戦う戦士です。

 戦士には水(陰)食料(血)パワー(気・陽気)が必要ですから欠けているものがあれば補充しながら戦います。これは風邪のひき始めの対処法です。長引く場合は病位も考えにいれるなど複雑です。また、治ったと思ったらまたひいてしまうとういう状態をくりかえす時は衛気虚で防衛力不足です。普段から衛気を益する衛益顆粒を服用しましょう。

2007-09-01

 喘息は発作期と緩快期をくりかえします。発作時には咳・痰・胸苦しい、さらに重症になると呼吸困難・窒息ということにもなる大変な病気です。気管支に慢性的な炎症があり、ちょっとした刺激で発作が起きるということで、最近は発作をおさえていく為、吸入ステロイド剤が使われています。

 中医学で喘証と哮証が喘息にあたります。発作時にゼロゼロ痰の音がするもので、甚だしいと呼吸困難をおこすものを哮証といいます。宿痰が肺に潜伏していると考えられています。呼吸困難をおこし、甚だしい時は口を開き、肩をあげて呼吸するものは喘証です。

 症状のある時は症状に対する漢方薬(標治)を、症状がない時は体質を改善する漢方薬(本治)を用います。また、標本同治の時も多いです。西洋医学では気管支拡張剤・抗アレルギー剤・気道粘膜調整剤・ステロイドなど症状に応じて使います。

 漢方は薬効でもちいるわけではありませんので情報を集めなくてはいけません。冷えてでているのか?熱をもっているのか?
・・・寒熱は重用です。痰の量や性状・寒気・発熱・痛み・汗・・・

寒の時は麻黄湯・小青竜湯など
熱の時は麻杏甘石湯(麻杏止咳錠)・五虎湯など
熱痰がある時は温胆湯など
寒痰のある時は半夏厚朴湯・蘇子降気湯など
空咳や痰が喀出しにくい時は麦門冬湯や潤肺糖漿(養陰清肺)など

 症状に合わせて組み合わせます。本治の方は少し複雑です。病位といって病気の位置は肺にあるのですが、原因が肺にあるとはかぎりません。喘息の発作時は苦しくて息がはく事ができない状態です。中医学(漢方医学)では「肺は呼気を主る」といいます。息を吐くというのは肺の働きということです。だから、息がはけないのは肺の働きが失調しています。

 では、息を吸い込むのは?納気(吸気)は腎が主催しています。だから、息が吸い込みにくいのは腎が虚している証拠です。呼多吸少(はく息の方が吸う息より多い状態)といわれます。・・・このタイプは息が足りなくなるため、時々大きく吸い込みます。

 呼吸は肺と腎の共同作業!腎が弱ると呼吸が浅くなります。腎は陰陽バランスの基です。腎の陰陽を真陰・真陽といいます。ですから陰虚と陽虚を分けて考えます。

腎陰虚の場合は八仙丸(麦味地黄丸)、滋陰降火湯など
腎陽虚の場合は平喘顆粒(蘇子降気湯)、双料参茸丸、金匱腎気丸+参かい散(人参と蛤かい)など

 蛤かいはオオヤモリの尾で、補肺益腎・納気定喘(肺と腎を補い、吸気を納めて呼吸困難の状態を改善する)の働きがあります。また、冬虫夏草は補肺陰・益腎陽に止血化痰の働きがあるので陰虚にも陽虚にも使われます。

呼吸法で息を丹田まで深く吸むというのを聞いた事があるよ。
コーラスの時も深く吸い込むから腹式呼吸だよ。
丹田は臍下三寸で腎と関係してるのよ。

 哮証のように潜伏している痰がある時は脾も重用です。脾は『生痰の源(痰を生む源・・・痰の製造場所)』といわれます。さらに、肺とは相生(母子)関係です。食べ過ぎ、偏食などが誘引になって喘息をおこしている場合も多いです。肥甘厚味のものは痰をつくるので控えるほうがいいです。

肥・・・油(脂)っこいもの
甘・・・甘いもの      
厚・・・濃い味のもの

   
 脾虚痰湿がある時は健脾化痰の六君子湯・ストレスがあれば理気薬が加わった香砂六君子湯がよく使われます。もちろん肺が弱い(肺虚)の時もあります。それともう一つ、わがままな肝のせいで喘息がおきる事もあります。特徴は喘息が精神的なものから誘発されるということです。これを肝気横逆、肝気犯肺といいます。

 緊張すればするほど咳き込んだりする経験がある人もあると思います。またストレスによってむせて咳きがでて言葉を続けられないような場面を見た事のある人もいると思います。いずれにしろ体質改善は必要だと思いますが 気長に時間をかける必要があります。

2007-09-01

 肺虚とは

①肺(形態としての)が足りない(弱い)
②肺の働きが足りない(弱い)ということです。

 肺は嬌臓(よわよわしい)といわれます。いつでも呼吸を通じて外界とつながっていて邪気を受けやすいからです。空気中の細菌かび・ほこり・排気ガス・タバコの煙・花粉など・・・鼻水や痰は不要なものを排泄する防御機能ともいえます。体内に悪いものを入れないように粘膜に抗体があってブロックしています。中医学では邪気を入れないようにする力(気)を衛気といいます。鼻や喉は肺のグループでその粘膜は肺衛といって防御壁です。肺虚で衛気不足だと防御機能も弱く、風邪を引き易い・喘息・アレルギー性鼻炎、その外にもウイルスや細菌など邪気の侵入によってかかる病気になりやすいといえます。

 肺の大事な働きは呼吸です。人は呼吸できなければ生きていられません。呼吸は身体の営みになくてはならないのです。宗気という気は肺自身の呼吸の働きや心臓の駆血力をはじめとする血の運行の動力となる気です。肺は宗気の生成にかかわっています。肺で吸収された気と脾胃の運化作用によって飲食物から得た水穀の気が合わさって宗気がつくられます。ですから『肺は一身の気を主る』といいます。肺虚だと呼吸が弱いばかりでなく、宗気の生成も減り、血の運行も支障がでます。

 肺と心臓は肺静脈・肺動脈でつながっています。身体中に酸素をはこんできた血液は使用済みの二酸化炭素をもって心臓にかえってきます。それを心臓は肺に送りだし、血液は二酸化炭素を酸素に交換してもらって心臓にかえってきます。中医学の考え方でも『肺の呼吸』と『心の血脈を主る』ということが宗気を通じて関係しています。

 肺は宣発粛降を主る

 また、訳の解らない言葉がでてきたが何となくイメージはできますか?宣発は外・上に向かう感じで粛降は内・下に向かう感じがします。息を吸ったり、出したりも1つです。他には 宣発は外・上ですから全身や体表部へ向かって発します。何を発するのでしょう?それは脾で輸送された津液や水穀の精微や邪気から身体を防衛する衛気とかです。また、粛降の方は内・下ですから津液や水穀の精微が五臓に向かいます。肺は五臓の中で一番高い位置にあります。ですから その働きがわるくなると大変!咳や鼻水、鼻づまり・汗のかきすぎや無汗・浮腫みなどの症状がでます。

 宣発作用は水液を全身に散布し発汗と関係しているし、粛降は腎、膀胱に水液を降ろす働きで水液の排泄と関係しています。これを肺は水道を通調するといいます。宣発機能が失調し、汗が出なくなると体温調節ができなくなり熱がこもりるし、浮腫みがおきます。また粛降作用が失調すると尿の出が悪くなったり、浮腫みが出たりします。ですから肺気虚の人は浮腫み易く、湿度が多いのは苦手です。梅雨や秋雨の頃や台風の来る前などは喘息発作がおきやすかったり、痰が絡んで来たり、身体がおもだるかったりし易いです。

 尿の出が悪いと普通「膀胱かな?腎臓かな?」って考えます。中医学漢方では肺や脾も関係しています。

①肺の通調水道の働きは?
②脾の運化は?(栄養や水分の輸送の働きの事です。)
③腎の水液を主る働きは?
(その外 膀胱・腸・三焦など水液代謝にかかわっています。)

 肺虚で機能面が弱いと呼吸が弱い、浅い・病気にかかりやすい、浮腫み易い・発汗の調節が悪い・・・などの症状がでます。では肺虚で物質面の不足は肺陰虚といいます。肺陰が不足しているとは、肺のグループの潤いが不足しているという事です。つまり粘膜があれて、刺激に弱くなっている・乾燥ぎみ・痰はでないか水分が少ないため粘って出しにくい・・・などの状態がでてきます。肺は呼吸ばかりでなく、外邪に対する免疫力や血の巡りに対しても役目をはたしていることが解ったと思います。

 余談ですが、今朝のニュースで昨日の白鵬の取り組みの事を、“相手の力士がなかなか手をつかないので、白鵬は怒って力が入り、あぶなげなく勝ちました。”といっていました。中医学的にいうと『怒により肝が実し、力が入った(エネルギーがどっと流れた)』といえると思います。気持ちと肝は関係しています。目を見開いて相手をにらむのは怒によって肝を実しさせようとする動作です。「興奮してしまって」としきりに反省していましたといっていましたが、取り組みに際してはこの強い気の働きは大事です。

 がんばれ!!

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