認知障害の中医学における治療

命門の火
中医臨床147号は老齢症候群の特集です。
あと数年で65歳以上の高齢者が30%をしめるようになります。30%というと3人か4人に1人は高齢者という事になります。
書いている私も入ります。

 しかし、若々しくて元気な人も多く見られます。やる気とまでは行かなくてもやりたい気持ちは大事です。

あの温泉に行ってみたい。あの景色を見てみたい。じゃあ行こう!
美味しそう。じゃあ作ってみよう。

など日常生活の中で小さな感動があり、小さな望みを持ち、行動できるのが若さだと思います。

 身体を動かすのがおっくうになった。
それは脳と関係している事が多いです。
軽度認知障害のテストは筋力なども見ていきます。
身体を動かすのは脳から指令が行って動かせているからです。

 脳梗塞のリハビリで身体を動かしていく事は脳を動かす事につながります。
認知症予防には身体を動かす事やおしゃべりしたり、歌ったり表情を動かす事も大切です。

 認知障害は「脳血管型認知症」「アルツハイマー型認知症」「その他」とわかれています。
脳の血管の動脈硬化によって酸素や栄養がうまく運ばれない為の認知症は脳梗塞とも関係しています。
また、アルツハイマーは脳にβ―アミロイドというタンパク質の沈着がある事が解かられています。

 中医学でとらえると認知症は病位は脳です。しかし中医学で脳は奇恒の腑といい五臓六腑を素に考えるものです。
肝・腎・心・脾は脳と関連が強く、肝の疏泄機能は気の流れのコントロールや情緒とも関係しています。
 腎は髄を生じ、髄海(脳)に通じるといい、脳の物質面をささえています。
心は神を蔵すといいますが、神は脳の思惟活動をさし、機能面の中心になります。
脾は気血生化の源で他の臓腑をバックアップするとともに心とは相生・肝とは相克関係で繋がっています。
また、腎気腎精を後天的に補うので、後天の精といわれます。
このように脳そのものでなく五臓を通じての脳で考えてます。

病因病機(本虚標実)

 中医学は病気の原因や機序を重要視します。本虚標実とは根本原因は虚にあって、それによって出来た実邪があるという意味です。
病因は虚(血精の不足・五臓の衰え)によるものです。
標実は痰湿・瘀血・火さらに風です。
その虚や実邪により脳髄の減少と神機の失調し認知障害が出てきます。

 認知症に人に良く見られる証は陰虚・血虚・気虚・痰濁・血瘀・火だそうです。
また陰陽の失調は清陽を上昇できずに神を養う事が出来なくなりますし、
濁飲も清陽の上昇を阻害するばかりでなく、神を損傷します。

 心血の不足や腎精不足は髄海を充たす事ができませんし、心気の不足や腎陽の不足すると神明の失調や脳に栄養が届かないなどになります。
*腎陽・腎精は髄を生ずる上で必要な要素です。髄が生じなければ髄海を充たす事はできません。

 また虚の結果生じた痰や瘀血が化熱し痰火になると、痰は粘って益々竅を塞ぎ、こびりついて瘀血も酷くなります。

 七情の失調が原因という考えもあります。肝鬱から脾が過剰に克されたり、飲食が不摂生だったり、思慮過度などから脾が虚すと痰がより生まれて九竅を覆って虚実挟雑し複雑になります。

 中医学の最高峰にいる張教授は髄海に通じる腎の陰陽を重要視しています。

治療原則

 肝腎不足や心脾両虚の場合、通常は滋補肝腎や健脾養心などを行うが、認知症の場合は瘀血や痰濁が絡んでいたり、虚火や肝火を伴ったりしているので単純にはいきません。
 補腎する場合でも腎精髄から考えて填精の力のある方剤を選ぶべきだと思います。
 また活血化瘀・化痰開竅も必要です。

 張教授は認知症の治療は補腎健脳養心・填精益髄を目標とすると書いておられます。
 以下の4点を念頭にいれて弁証論治する事が重要

①陰陽のバランス
②補血温陽・固斂精気
③袪痰化瘀
④昇達清陽・固護後天